大企業のホワイトカラーには転勤がつきもの。しかし、家庭の事情でその土地を動きたくない場合もあるだろう。転勤命令を拒否したらどうなるか。

神戸大学大学院教授(労働法)の大内伸哉氏が解説する。

「転勤を命じることができるかどうかは、会社と従業員との契約内容によります。就業規則に『業務上の必要性により転勤を求める場合がある』という規定があれば、会社側は転勤を命じることができます。ただし、特に勤務地を限定する約束をあらかじめしていれば、それ以外の勤務地への転勤は、拒否することができます」

単身赴任を強いられる場合はどうだろう。民法752条は夫婦の同居義務を定めている。単身赴任によって同居義務を果たせなくなるなら、転勤命令を拒否してもいいのではないか。

「業務上の必要性がある転勤命令であっても無効とされることはあります。それが会社による『権利の濫用』とみなされる場合です。たとえば業務上の必要性に照らして従業員の不利益が著しく大きい場合がこれにあたります。過去の裁判例からすると、自活できない両親や障害を持った兄弟や子供がいる、家族の誰かが病人で介護の必要がある、といったケースがこれにあたります。しかし『単身赴任をしたくないから』という理由だけでは、著しく不利益とはいえないでしょう」(大内教授)

一方、妻のある男が職場の女性と深い仲になってしまった、という場合はどうだろう。

不倫は民法上の不法行為(貞操義務違反)にあたり、“被害者”は自分の配偶者と浮気相手に対して損害賠償を請求できる。とはいえ、本来、そこに会社が介在する理由はなさそうだ。

たとえば既婚男性と独身女性との社内不倫が発覚し、独身女性だけが解雇されたというケース。

裁判では、2人の関係はこの会社の懲戒事由にあたる「素行不良」に該当するが、企業運営に具体的な影響を与えるほどではないとして、解雇は無効と結論づけた。

だからといって、安心できるわけではない。

「たとえば『怒り狂った奥さんが職場に乗り込んできて大混乱になった』など明らかに業務に支障が出ていれば、会社側にも一定の処分を行う権利はあるとみられます」

大内教授は、こう警告するのだ。

神戸大学大学院 法学研究科教授 大内伸哉
1963年生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大学院修了。『労働条件変更法理の再構成』『どこまでやったらクビになるか』など著書多数。近著『君は雇用社会を生き延びられるか』。
(久保田正志=構成 浮田輝雄=撮影)
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