アメリカのテック企業で大規模な人員削減が続いている。その実態はどのようなものか。米シリコンバレーの企業で要職に就いていた井上恭輔さんは、ある日、突然レイオフ(業績不振や事業再編といったビジネス上の理由による整理解雇)を告げられたという。ルポライターの伊田欣司さんが取材した――。(第1回/全2回)
SANU執行役員CCXOの井上恭輔さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
SANU執行役員CCXOの井上恭輔さん

「ズーム会議」でいきなり告げられたこと

社長とのミーティングは1対1の予定だった。Zoom(ズーム)の会議室に入ると、社長の横に別の画面が表れた。なぜか、人事担当者が参加している。

「あれ、URLを間違えました?」

何かの手違いだろうと尋ねてみると、

「いえ、これで合っています」

社長の冷静な声を聞いた瞬間にすべてを悟った。レイオフだ。

井上恭輔さんは2018年から6年近くシリコンバレーのスタートアップ企業に勤め、最終的に「Interim CTO(暫定最高技術責任者)」「Software Architect(ソフトウェア設計者)」と呼ばれる要職に就いていた。

レイオフの通告は、失言を避けるようにきわめて事務的に進んだ。雇用の継続が難しくなったこと、井上さんに選択権はないこと、雇用保険は自費での任意継続が可能なこと、退職金が支払われること、これまでの貢献に感謝していること……熟慮のすえに下された決断であることが理解できた。やむなく井上さんは、レイオフを受け入れると伝えた。プロダクト開発が楽しかったこと、雇用を通してグリーンカード(永住権)を取得できたことへの感謝も述べた。

同僚への「さよなら」すら許されなかった

ミーティング終了と同時にすべてが停止した。会社のグーグルアカウントも、プログラムのソースコードを管理・共有するGithub(ギットハブ)のアカウントも使えない。Slack(スラック)からは完全にBANされ、同僚にさよならを伝えることさえ許されなかった。

「本当なんだな、と思いました。話に聞いていたままを経験しました」

身近にレイオフが起きたことは何度かあった。衝撃だったのは、この会社に初めて足を踏み入れた日のことだ。

「まだ社員になる前、仕事を手伝ってほしいと言われてオフィスにきたんです。アメリカ人のエンジニアがたくさんいて、これから同僚になるからよろしくとみんなに挨拶したら、ガン無視されたんですよ。なんか怖い人たちだなぁと思って」

社長に挨拶した井上さんは、率直に第一印象を述べた。

「職場の空気、めっちゃ悪いっすね」

社長の返事は意外なものだった。

「実はね、彼ら全員をレイオフしたばかりなんだ」

エンジニアたちの冷たい態度も無理はなかった。井上さんは彼らが去ったあとの会社を立て直すファウンディングエンジニアとして雇われるのだ。「そんな日に呼ぶなよって思いました」と井上さんは苦笑する。