ステージ4のがんと診断されながら、フルマラソンやウルトラマラソンに出場している市民ランナーがいる。手術をくり返し、抗がん剤治療の副作用に苦しみながらもなぜ走り続けるのか。ジャーナリストの亀井洋志が、昨年12月の沖縄ウルトラマラソンに挑戦した患者2人に迫った――。
ホノルルマラソンを完走時の五十木輝美さん
写真=本人提供
ホノルルマラソンを完走した時の五十木輝美さん

30代でがんを告知されて「立てた目標」

いつまでも走り続けていたい――。

ハワイのホノルルマラソンを走りながら、五十木輝美さん(39=埼玉県在住)はそんな感慨が押し寄せてきたという。

看護師として大学病院などに勤務してきた五十木さんは、多忙な日々に追われていた。かねて「ハワイ旅行に出かけて、ホノルルマラソンに出場したい」という希望を抱いていたものの、あまり現実味のない話だった。それを実行に移そうと決意したのは、がんの告知を受けた時だったという。

五十木さんがこう話す。

「私は勤めていた病院で、がんの告知を受けた患者さんを何人も見てきました。夜、病室で泣いてしまう人もいれば、病気のことをインターネットで熱心に調べ始める人もいました。私の場合は好きなことができなくなってしまうという焦りから、ハワイ旅行の計画を立て始めたんです。旅費はいくらかかるのかとか、観光スポットやマラソンのコースについて調べました。いま考えると、一種の現実逃避だったのかもしれません」

学生時代はチアリーディングの選手として活躍した。ジャンプやスタンツ(組体操のように人を持ち上げる技)などをくり出すアクロバティックな競技だけに、もともと体力には自信があった。がんの告知を受けた日から、闘病しながらマラソンに挑戦し続けるという新たな生活が始まったのである。

「あと1年間生きられるだろうか」

五十木さんに大腸がんが見つかったのは、2022年1月のことだ。お腹が張るような感じがあり、食後に腹痛を起こすといった症状が続いたため近所の胃腸科クリニックを受診した。腹部エコー検査を受けるとすぐに大きな病院を紹介され、即日入院となった。翌日には、大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)や胸部CT検査が実施された。

検査結果については、夫とともに説明を受けた。下行結腸の部分に大きな腫瘍があるため手術で取らなければいけないこと、肝臓にも何かしらの腫瘍があることなどが、主治医から告げられた。

「私は大腸カメラを受けながら、モニター画面を見ていました。一目でがん細胞とわかるものが映し出されていたので、覚悟はできていました。主治医の先生は言葉を選びながら説明してくれましたが、私のほうから『肝臓への遠隔転移があるということは、ステージ4ですね』と確認しました」

結婚から5年がたち、念願のマイホームを購入し、愛犬のラブラドールレトリバーを飼い始めた。五十木さん夫婦の生活が軌道に乗り始めた矢先のがん告知だった。

「私は看護師として同じような患者さんを見てきた経験から、あと1年間生きられるだろうかと思いました。でも、そんなことを考えていても仕方がない。これから先、元気でいられる時間は限られている。病気のことは先生たちにお任せして、私は自分のやりたいことをやろうと思い直しました。夜、病室で40歳になるまでにやりたかったことをいろいろと思い浮かべながら、スマホでハワイ旅行の情報を猛然と調べ始めたんです」