インドネシアは、地盤沈下と渋滞に苦しむジャカルタに代わり、ボルネオ島のジャングルに総事業費300億ドル(約5兆円)を見込む新首都ヌサンタラを建設している。宮殿や真新しい道路、オフィス群が整う一方、中核部の住民は約1万人にとどまり、政府機能の移転も実現していない。壮大な未来都市は、なぜ完成前から「ピカピカの廃墟」と化しているのか。海外メディアの報道から読み解く――。
ガルーダ宮殿(ヌサンタラ)におけるインドネシア共和国独立79周年記念式典、2024年
ガルーダ宮殿(ヌサンタラ)におけるインドネシア共和国独立79周年記念式典、2024年(写真=BPMI事務局 インドネシア共和国大統領/Vico/FoP-US/Wikipedia

「鷲の宮殿」がそびえる無人の大通り

インドネシア・ボルネオ島に生い茂る深い木々を抜けた先に、それは突然現れる。複数車線の真新しいハイウェイに、白亜のオフィス群。インドネシアが国を挙げて建設中の新首都、ヌサンタラだ。

その中枢、中核政府地区(KIPP)で赤道直下の強烈な陽光を浴びて輝くのは、純白の国家宮殿「イスタナ・ネガラ」。背後には、高さ約77メートルの巨大な鷲型の建造物がそびえる。インドネシアの国章に舞う神話上の鳥・ガルーダをかたどった、大統領の執務棟だ。イスタナ・ガルーダ(ガルーダ宮殿)の名で呼ばれ、金属製の外装は20階建てビルに相当する高さがある。

インドネシアは2019年、大気汚染や慢性的な渋滞に加えて地盤沈下で沈みつつある現首都のジャカルタに代わり、ボルネオ島・東カリマンタンのジャングルにゼロから新首都を建設する構想を発表した。

再生可能エネルギーを電力源とし、先端技術で運営する都市。それがヌサンタラの将来像だった。米公共ラジオ放送局のNPRによると、総額300億ドル(約4兆8900億円。7月23日現在のレート、1ドル163.06円で換算、以下同)超を見込む巨大プロジェクトが2022年に着工。現在までに、機能的な中心部に当たるKIPPはほぼ完成した。

だが、その新都市の大通りに人影はほとんどない。

英紙は「見かけ倒しのゴーストタウン」と警告

現在、新首都に行き交うのは庭師と、物珍しさから訪れた観光客くらいのものだ。

NPRが今年4月に報じたところでは、中核部の住民は約1万人にとどまり、うち公務員がおよそ1000人を占める。真新しい街路は閑散としており、英日刊紙のガーディアンは昨年10月、ヌサンタラが「見かけ倒しのゴーストタウン」になりかねないと警告した。

政府機能も未だ移転を果たしていない。インドネシア英字オンライン紙のジャカルタ・グローブによると、インドネシア憲法裁判所は今年5月、首都移転を定めた2022年の新首都法(通称IKN法)の違憲審査請求を棄却したが、大統領が正式な移転令を発するまで引き続きジャカルタが国家の首都であるとも、全員一致で確認した。

同裁判所のアディエス・カディル判事は、「法的・政治的にはヌサンタラが国家首都として指定されているが、移転プロセスはまだ大統領令を待っている段階だ」と説明する。

計画の失速は、2024年10月の政権交代に端を発する。

ヌサンタラは元々、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)前大統領の肝煎り事業だった。だが、後任のプラボウォ・スビアント大統領のもとで、国家の予算配分は大きく様変わりした。

ガーディアンは、ヌサンタラへの割り当て額が2024年の20億ポンド(約4370億円。7月23日現在のレート、1ポンド218.42円で換算、以下同)から2025年は7億ポンド(約1530億円)、2026年は要求額の3分の1にあたる3億ポンド(約655億円)へと急速に縮小したと指摘する。