未来都市の交通は15年先送りに

式典でヌサンタラの幹線道路を華々しく走行したARTは、本格的な実証試験の段階に入った。

インドネシア最大手紙コンパスによれば、実証フェーズは期待に遠く及ばない結果に終わったという。技術評価で判明したのは、肝心の自動運転システムが安定して機能しないという事実だった。

ARTは路面の点線をセンサーで読み取り、これを仮想的なレールとして車両を誘導する設計だ。だが、この自動運転の仕組みが十分に機能せず、走行中に手動操作による介入を頻繁に必要とした。

こうして中車四方製の車両は、実証期間の終了をもって中国へ返却された。

ヌサンタラ首都庁で2022年から2025年までデジタル・グリーン転換副長官を務めたモハメッド・アリ・ベラウィ氏はコンパスに、「国家予算は、輸送も、試験も、返却も、一銭も使っていない」と述べ、国庫への損失はなかったと強調した。費用はすべて製造元のCRRCと中国の防衛系コングロマリット・ノリンコが負担したという。

だが、ヌサンタラではARTに加え、空飛ぶタクシーの導入も正式に延期されている。バスキ氏は、先端交通技術は2040〜45年に成熟した段階で導入すべきだとの見通しを示し、当面の交通手段として電気バスを2026年から運行する計画に切り替えている。

自動運転を掲げた未来都市の交通計画は、15年ほど先の話へと後退した形だ。

ヌサンタラを走る予定だった中国製の自律走行車両「ART(Autonomous Rail Transit)」
ヌサンタラを走る予定だった中国製の自律走行車両「ART(Autonomous Rail Transit)」(写真=インドネシア共和国運輸省、政府事務局/PD Indonesian Government/Wikimedia Commons

最悪の浸水に襲われた新首都

ジャカルタでは雨期になると毎年のように、首都圏の広い範囲が冠水する。それを逃れるために選ばれたヌサンタラの地でも、皮肉にも同じように洪水が住民たちを襲っている。

インドネシア有力ニュース誌のテンポは2023年3月、新首都の中心エリアにあたるセパク地区が洪水に見舞われたと報じた。道路や住宅だけでなく、収穫直前の水田までもが濁流にのまれた。セパク地区内で最も被害が大きかったRT03行政区画では、少なくとも20戸が40〜50センチまで浸水している。

セパク地区の水害の歴史は半世紀以上前にまでさかのぼる。ボルネオ島の東部、バリクパパンで代々暮らしてきた先住民バリク族の族長シブクディンさんは、1960年代にセパク川上流で土地開発が始まった頃から洪水が繰り返されてきたと説明する。

地元防災当局の記録では、2019年から2022年1月までにセパク周辺で計15回の洪水が発生した。ペマルアン村のバリク族の族長ジュバインさんは2023年3月の洪水を「2010年以来最悪」と評し、水位は1.5メートルに達した可能性があると述べる。長年の上流開発で川が浅く狭くなったところに、新首都の建設が重なり、水害はさらに悪化した。

2023年以降も、新首都域内のセパク地区周辺で浸水事例が毎年生じている。コンパスによると、今年1月にも新首都域内のメンタウィルで54戸が浸水し、住民は過去26年間で最悪だと語った。

水害を避けた先の土地にあった、度重なる洪水の歴史。土地の事情が十分に考慮されていなかったと言わざるを得ない。