「常にファクトから入れ」
商品発注だけでなく、新しい商品開発も、新規事業の開発も、仮説を立てる。仮説を立てるには、「今の変化」を見なければならない。「今の変化」を見続け、対応することで、結果として5年先、10年先の変化対応に行き着く。セブン銀行やセブン&アイ・ホールディングス設立も同様であった。「変化への対応」と「基本の徹底」は別ものではなく、「今の変化」に対応することを基本として徹底する。
では、「今の変化」をどのようにとらえればいいのか。私が鈴木さんから学んだのは、「常にファクト(事実)から入れ」ということでした。現状の事実を的確に把握することで、自分の思い込みや過去の習慣、売り手側の都合を排していく。その際、全体と個、マクロとミクロの両方の目で事実をとらえなければならない。
例えば、セブン‐イレブンには「金の食パン」という商品があります。プライベートブランドであるセブンプレミアムのワンランク上のセブンプレミアムゴールドのシリーズで、2013年に発売しました。スペシャルブレンドの小麦粉、フランス産発酵バター、北海道産生クリームを使用。1斤6枚入りが256円(発売当時)とナショナルブランドの食パンより5割以上高い値段でしたが、発売4カ月で実に1500万食を販売して驚異的な実績を上げ、大人気商品となりました。
この金の食パンは、「お客様はもっとおいしい食パンを求めているのではないか」という鈴木さんの仮説が出発点でした。なぜ、着想できたのか。当時、食パンでは低価格競争が続いていて、スーパーなどでは特売が多く、低価格帯の食パンでは1斤100円を切る価格も珍しくありませんでした。一方、専門店や高級レストランなどでは、より高品質のパンが1斤300~400円でも人気を博していました。それは製パンメーカーも、流通業も、誰もが知りうる事実でした。
「数を追うな、質を追え」
この現実について、「専門店とコンビニは別の世界」ととらえれば、その先へは進めません。これに対し、鈴木さんは思い込みや過去の習慣、売り手の都合にとらわれることなく、「食パンについても多少高価格であっても高品質のものをお客様は求めている」とマクロのトレンドを読み、セブン‐イレブンで売る食パンというミクロについてもマクロの中でとらえ、金の食パンの開発という仮説を打ち立てたのでした。
鈴木さんの発案は、常にファクトがベースにあった。ファクトをとらえるため、情報の収集を怠らず、どのようなことについても好奇心や関心を持ち続けました。
「数を追うな、質を追え」。それも口癖でした。店舗展開においても「1万店を目指す」といった店舗数を目標に掲げることは一切しませんでした。1店舗当たりの売上げを伸ばし、1店舗1店舗の経営の質を高めていけば、結果として店舗数は増えていく。商品も質を高めることで量が売れるようになる。質が量に転換するという信念も不動のものでした。


