※本稿は、神野正史『世界史の名将たちの「戦略と戦術」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
人類が繰り返してきた「愚」
人は、目の前の“小さな損失”を取り返そうとして引き際を誤り、どんどん傷口を広げて破滅していくことがよくあります。
博打で身を亡ぼす者などはその好例でしょう。
紀元前5世紀の「ペロポンネソス戦争」もその典型で、27年間も戦がつづけば、両陣営ともに民は疲弊し、経済は破綻し、社会は紊乱して、もはや戦えるような状況ではなくなっていましたが、「ここまでの犠牲を払って、今さら退くわけにはいかぬ!」とお互いに意地になって際限なくつづくことになったのでした。
しかし、これこそが破滅への一里塚。
前404年、ようやく戦が終わり、一応「スパルタの勝利」ということで幕引きとなりましたが、戦に敗けたアテネはもちろん、勝ったスパルタですら社会・経済・軍事ともにガタガタとなっており、彼らに覇権を維持する力はなく、ほどなく衰亡していくことになりました。
なんのための戦勝か。
たとえ目の前の戦争に勝った(戦術的勝利)ところで、それによって衰亡してしまった(戦略的敗北)のでは本末転倒なのですが、愚者というものはどうしても“目先”に囚われて“全体”を観る力なく、頻繁にこの愚を犯します。
戦後ロシアの「解体」は避けられない
直近の好例がV(ウラジーミル)・プーチンでしょう。
彼もまた歴史に学ぶことができず、同じ過ちを繰り返すことになりました。
2022年。
プーチンは「ウクライナ併呑」の野心に燃え、侵掠戦争を仕掛けます。所謂「露育戦争」です。
開戦前、プーチンは「こたびの戦は最初の“一撃”で終わる」とタカを括り、兵站すらまともに準備していなかったといいます。
日中戦争前に「こたびの戦など南京を陥とせば終わる」とナメてかかって泥沼戦争に落ち込んだ旧日本軍と同じ轍を踏んだわけです。
案の定、戦争は泥沼化、ロシアは外交的に孤立し、金融は封鎖され、経済は破綻し、社会は紊乱、多くの若者を死地に追いやっただけでなく、将校ですらつぎつぎと戦死していき、保有していた兵器・軍事設備は破壊し尽くされて軍部は解体寸前。
これでは、仮に(仮定法未来)ロシアがこの戦争に勝ったとして、「ペロポンネソス戦争」に勝ち抜いたあと滅亡したスパルタと何が違うのか。
もっとも、対するウクライナとて無傷でいられるはずもなく満身創痍、もはや“総力戦”の様相を呈してきたため、ロシアが「勝つ」のか「敗ける」のか、今や専門家の間ですら見解の分かれるところとなっていますが、ここに筆者は“予言”しておきましょう。
ロシアの敗けです。

