酒好きの心の拠り所「Jカーブ」
お酒と聞くと、ある患者さんとの診察室での会話を微笑ましく思い出します。
医師(私)「ちょっとお酒の量を減らしたほうがいいですね」
患者さん「お酒の量は減っています。たくさん買い置きしていても、毎日どんどん減っていくんですよ」
医師というのは、とかく患者さんの楽しみに水を差す存在です。「お酒を減らせ」「タバコをやめろ」「体重を落とせ」。正しいことを言っているかもしれませんが、これでは嫌われても無理はありません。
その点、酒好きにとって心強かったのが「少量の飲酒は健康にいい」という説です。
以前、「お酒をまったく飲まない人より、少量飲む人のほうが死亡率が低い」という研究があり、これをグラフにするとアルファベットのJの形になるために「Jカーブ」と呼ばれて支持されていました。「酒は百薬の長」に、医学的なお墨付きが与えられたようなものです。ところが、現在では残念ながら、お酒は少量でも健康に害があることがわかっています。
飲酒の害を小さくするための工夫
Jカーブを導き出した研究では、お酒を飲まない人の中に病気になって飲酒をやめた人が含まれていたこと、お酒を少量で済ませられる人は経済状態や食生活などにも恵まれている傾向があったのです。こうした偏りをできるだけ取り除いたところ、少量飲酒による健康上の利益は認められませんでした。むしろ、がんなど一部の病気については、少量の飲酒でもリスクが上がると考えられています(※1)。
こう書くと、「ちょっとのお酒もダメだというのか」と反発したくなる人もいるでしょう。しかし、「少量でもリスクがゼロではない」と「一滴も飲んではいけない」は同じ意味ではありません。多くの場合、お酒を少量飲んだからといって、個人のリスクは、それほど増加しません。医学が示せるのは、飲まない場合と比べてリスクがどうなるか、だけです。そのリスクを承知したうえで、お酒の味や人と飲む時間を楽しむかどうかは、個人の価値観によるでしょう。
ですから、私はみなさんに禁酒を迫ろうとは思いません。そもそも、私自身、お酒を飲んでいます。健康にいいと思って飲んでいるのではなく、健康への悪影響という対価を払って、飲酒の楽しみを買っているつもりです。
ただし、同じ楽しみを得られるなら、払う対価は少ないほうがいい。どうすれば酒の害をなるべく小さくしながら、楽しく飲み続けられるのか。今回は、酒好き医師である私自身の飲み方と工夫を紹介します。
※1 Light alcohol drinking and cancer: a meta-analysis - PubMed

