「現状に問題がないのであれば、何も変えなくていいのではないか」。そう考えていた佐賀トヨタ社長・金子晴雄の新たな改善活動のさなか、ある人物が東京から訪れた――。

自分は改善を通して一体誰を幸せにしているのだろうか?

金子は言った。

「私はまったく間違っていました。それまでの私はTSL、TPS、改善とは生産性向上を目的にしたものと考えていたんです。そして今、仕事がいい状態であれば現状を変えなくてもいいとも思っていた。しかし、違っていました。TSL、TPS、改善は仕事の話ではないんです。

人を幸せにすることなんです。今いる社員をもっと幸せにする仕組みなんだなとやっとわかりました。社員の仕事をもっと楽にしなくちゃいけない。もっと効率的に業務をさせる、もっと簡単に業績を上げることができる。

要するにTSLは社員が楽になるためのシステムだ、と。佐賀トヨタはそのシステムを導入していなかった。私は経営者として社員を幸せにしようとはしていなかった。恥ずかしかったです。

TSLは販売の業績が上がっているから取り入れなくていいという話ではなかったんです。

うちには『社業を通じて幸せを創出する』という企業理念があります。『佐賀県で最も幸せを創出できる企業へ』と謳い、従業員、お客さま、地域、グループを全部、幸せにすると宣言しています。それなのに……、私は社員を幸せにする努力を怠っていた」

……以後、金子晴雄は変身した。社員とともに手を携えTSL改善に向かって一直線に進んでいったのである。おしまい。

そう書きたいところだ。だが、人間は簡単に変わることができる動物ではない。反省した金子は気持ちとしてはフルタイムでTSL改善に邁進したかった。だが、実際の改善活動に参加したのは気持ちも時間もパートタイムだった。

「そうなんです。会社に帰って、これからは改善するぞとぶち上げたのですが、私が声を上げると社員はみんな嫌な顔をしたんです。そうすると、私もまた時期尚早なのかなあと思ってみたり……。だが、2025年の10月に、あの友山(茂樹)さんがうちの活動を視察に来ることが決まりました。これは大変なことになったと……」

金子がいくつかの問題に対処している間、部下たちは篤実に改善に努めていた。2023年9月には佐賀トヨタTSL改善事務局を設け、TSL推進部の指導を受けて、少しずつ取り組みを始めていった。

(撮影=本誌編集部)

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