売れる営業ほど疲弊し、売れない営業は辞めていく。福岡の販売店店長は、個人が数字を競う営業をやめた。編み出した「チーム制」は、図らずもトヨタ生産方式の考え方と重なっていた――。

人が変わるのはいつだって平時ではなく危機

福岡トヨタは佐賀トヨタと同じ昭和グループに属する自動車販売会社だ。佐賀トヨタは社長の金子晴雄が販売改善に着手するのが遅れた。トヨタ生産方式に対する懐疑があった。また、現状を維持したまま仕事をする安心感に寄りかかっていたからだ。しかし、佐賀トヨタには次々と危機が訪れた。コロナ禍、一時的な退職者の増加、雹被害……。現状を維持する仕事の体制では、たび重なる危機に対処できなくなったのである。経営トップの金子晴雄以下、社員は心を決めて販売改善に進んでいかざるをえなくなった。人が変わるのは平時ではなく、危機に陥った時だ。

佐賀トヨタは今も改善中で、前途に曙光が見え始めたという段階だ。それでも同社販売スタッフの仕事は以前に比べれば相当、楽になっている。

「仕事を楽に」すれば生産性は向上する。仕事をやっていて順調に進んでいけば人はちょっとした幸せを感じる。トヨタ生産方式の販売改善の目的は「他の人の仕事を楽にする」である。

そして、豊田章男が言う「幸せの量産」の第一歩とは仕事を楽にすることだ。

佐賀トヨタとは違い、福岡トヨタでは営業スタッフ出身の店長が「みんなの仕事を楽にしよう」と決めて、現場から仕事を改善していった。販売改善の導入より前から現場発の改善が始まり、結果的にはそれがトヨタ生産方式の販売改善だとわかった。

福岡トヨタの先行事例を「発見」したのはトヨタのTSL推進部だった。同部のメンバーが2022年に福岡トヨタを訪れた時、「うちにはチーム制で販売改善を進めてきた店がある」と聞き、次郎丸店(当時)へ行ってみたら、チーム制で営業とCRM(CustomerRelationship Management:顧客関係管理)を築き上げていたのだった。改善した同店の店長はトヨタ生産方式のエキスパートではなかった。しかし彼が現場で編み出したチーム制営業は同方式を活用したのと同じ効果を上げていたのである。

「心からあなたの役に立ちたい」まるで恋、福岡トヨタの誠実さ

“恋愛感情に似た心持ちから生まれた――”

チーム制営業とは文字通り、ひとりひとりの営業スタッフが数字を競い合うのではなく、店全体で車を販売することだ。車に限らず、販売代理店は多数あるが、どこでも基本は個人営業だ。個人がそれぞれ営業現場で数字を上げていく。しかし、福岡トヨタの次郎丸店では個人成績を問うのでなく、それぞれが役割を果たして店全体として車を売っていった。このシステムについては後述する。

そして同店はCRMでもチーム制だ。CRMとは「顧客の満足度を高めて、信頼、愛着を持たせ、リピートと顧客生涯価値を高めること」とされる。文字だけを読むと会社が「私たちが客に働きかけて、商品に愛着を持たせてやるんだ」といった姿勢が見てとれる。わたしが客であれば「余計なお世話だ」と感じるのが巷間言われるCRMなのである。

本来、商品に対する信頼とか愛着は使っているうちに自然に生まれてくるものだ。売る側からの作為的な働きかけでは生まれない。福岡トヨタの次郎丸店店長、池田洋介が始めたチーム制によるCRMは誠実な姿勢から生まれたそれだ。「あなたの役に立ちたい」という思いつめた気持ち、恋愛感情に似た心持ちから生まれた。

自動車販売店にありがちなCRM なぜ働くことが楽にならないのか

通常、自動車販売店の営業スタッフがやることは新車、中古車の販売とそれに関わる仕事だ。サービスの担当は車を整備、車検などを行う。その他のコールセンター、事務などは店舗オペレーション担当が行う。一例として書類作成のサポートがある。これもまた店舗オペレーションの仕事だ。

(イラストレーション=浅妻健司)

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