【FV】マーケ解剖学_第7回

日本経済新聞社の記者として40年以上にわたり市場を見つめ分析し続けてきた“マエダ先生”こと前田昌孝さんが、投資の基本から最新の市場動向まで平易に解き明かします。ビジネスや投資に生かせる「本質を見抜く眼」を養いましょう。連載第7回は「個人投資家が陥りがちな失敗」について考えます。

「相場は上昇の余地あり」、投資のプロのコメントの裏を読む

「市場参加者の全員が強気になったら、上げ相場は終わる」。こんな相場格言を聞いたことがあるだろうか。強気ということは全員がすでに株式を保有していて、上がるのを待っている状態だ。新たな資金で株式を買える人が出てこないため、もう相場を上げる力がないということを意味している。

この格言は実際の株式投資の現場では次のように解釈されて「利用」されている。「まだ全員が強気ではない。だから相場はまだ上昇する余地がある」という具合だ。新聞の相場コメント欄などで慎重論を語る人がいると、強気派は安心するのだ。「まだまだ健全な上昇が続いている証拠だ」。

いくら弱気論を唱えても相場が思惑通りに下がらないと、慎重論者も「いずれは天井を打つと思うけど、しばらくは行けるでしょう」などと言い方を変えてくる。慎重論を聞いて保有株を売ってしまった人が「儲けそこなった」と不満を寄せてくるからだ。

顧客が離れたら実入りが減ったり、社内での評価が低下したりするから、プロといえどもよほど腹の据わった人以外は結局、足元の相場動向を肯定するような解説しかしなくなる。一般の投資家がそんなコメントを聞いて、上昇相場がまだまだ続くとの期待を強めるのは自然であり、そして相場の急落は突然、やってくるのである。

市場に勝つのはプロでも困難、暴落が起こるメカニズム

筆者は常々、株式相場の先行きは誰にも予想できないと話していて、著書にもそう記載している。

どの企業が伸びそうか、どの企業がつまずきそうかなどは日々、情報を収集し、アナリストの分析レポートなどをみれば、ある程度は予想できるだろう。

しかし、その情報は基本的に誰もが知ることができる。投資家は企業が将来どうなるかを予想しながら売買しているのである。だから、良い材料も悪い材料も株価には基本的に織り込まれていて、今が買いどきか売りどきかなどは、誰にも分かるはずがないと筆者は考えている。

そういうと「エコノミスト、ストラテジスト、アナリストらは経済や相場、個別株の株価の先行きを堂々と語っているではないか」と反論されるかもしれない。しかし、彼らが相場の先行きを語ってそれなりの収入を得ているのは、相場の先行きを当てる特別な能力を持っているからではない。

市場の複雑な状況を分かりやすく整理し、相場の先行きを知りたいという多くの投資家のニーズに応える解説力に優れているからである。投資家が抱いていそうな上昇期待に対するお墨付きとして機能することも多い。

上昇相場が続けば、投資家も専門家の発言を聞いて「理論武装」し、どんどん強気になっていく。なかには株式や投信を何銘柄か持っているぐらいでは、資産形成に出遅れるような気分になってきて、預金を引き出してもっと多くのポジションをとる人も出てくる。

借金をして株式を買うのと同じことだが、信用取引を利用して投資元本の何倍ものポジションを張る人も出てくる。強気な人がどんどん増え、市場への流入資金も増え、売買代金も膨らみ、相場の上昇に加速度がつき、もう新たな資金が入ってくる余地がないほどに値上がり待ちの買いポジションでいっぱいになるのである。

そして暴落。巨額の損失を目の当たりにして、なぜもっと冷静になっていなかったのかと後悔する日々が続くだろう。上昇相場で利益が面白いように膨らんでいても、「私は相場がうまいのだ」などと自信過剰になってはいけない。一寸先は闇なのだから、むやみにポジションを膨らませてはいけない。

(文=前田昌孝)