fv_投資家桶井氏_配当金

投資初心者に支持を得ている投資方法は「現役の間はインデックス型の投資信託を積立投資で運用し、定年後は各種年金と投資信託の取り崩しで生活する」という、いわば鉄壁の安全策だ。しかし、「それが正しい投資の出口戦略なのか」と一石を投じているのが、個人投資家の桶井道(おけい・どん)氏だ。

配当金が大きくなると、気持ちが安らいでいった

桶井氏は現在51歳。会社員生活25年間で資産1億円、年間配当の手取りが120万円に達して退職し、2024年末には資産1.8億円・年間配当250万円まで成長させている。2025年に入りトランプ関税ショックで資産額は減少したが、配当金があるから気にならなかったし、あたふたすることもなく気がつけば資産額は元に戻っているという。桶井氏の投資の原点は、株式投資に積極的だった両親の姿だった。

「小さな会社を営んでいた両親は、投資にも熱心でした。ネットのない時代ですから、毎朝新聞の投資欄で株価をチェックして、電話で証券会社の担当者に売買の指示を出す。その姿を見てお金や投資の大切さについて考えるようになり、自然な形で金融教育を受けていたように思います」

会社員時代の25歳から投資を始めた桶井氏。当時は日本の個別株への投資が当たり前の時代で、東証一部や新興市場への上場株、成長株や配当株など、ひととおりの株取引を経験していった。

多忙な会社員生活に明け暮れていたとき、桶井氏の投資人生に転機が訪れる。

「30代に入って内臓に持病が見つかり、30代の後半になると体力的・精神的な不安が募り、次第に『定年前に退職して自由な立場になりたい』と思うようになりました。そこで、投資をもう一度勉強し直して、配当投資中心で資産を増やそうと考えたのです。ちょうどアベノミクスで本格的に日本経済が回復し始めた時期と重なったため、配当投資にシフトする下地ができていたと思います」

定期的な収入(インカム)を得られる配当投資中心に変えてから投資成績は目に見えて上向き、投資との向き合い方にも変化が訪れた。

「一番大きかったのはメンタル面。配当=収入があるということですから、気持ちに余裕が生まれます。一時的に株価が下がっても、あまり気持ちが乱されない。少しずつ配当金が大きくなるに従って気持ちが安らぎ、落ち込むことも少なくなりました」

配当投資の経験を重ねるうちに「良い銘柄を吟味して買えば株価は上がる」という確信が生まれ、短期的な売買はしないようになった。

「株価は短期的には政治や地政学、経済指標で敏感に動きます。一方で長期的な動きというのは企業の成長にリンクする。この違いを理解することで、銘柄選びさえ間違えなければ、短期的な動きは気にしなくて良い、ということを実感できるようになりました」

涌井道氏
桶井 道(おけい・どん)
1973年生まれ。投資家(投資歴20数年)・物書き。2020年に47歳で資産1億円+年間配当(手取り・以下同)120万円とともに25年間勤務した会社を退職して自由になる。それから4年で資産1.8億円+年間配当250万円まで成長させる。投資先は日米を中心に世界の高配当株、増配株、ETF、リート、投資信託など幅広く100銘柄以上を持つ。現在は、両親の介護・見守りをしつつ、単行本や連載などを通じて投資に関する情報を発信している。著書に 『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』(PHP研究所)、 『普通の人のための投資 いちばん手軽で怖くない「ゆとり投資」入門』(東洋経済新報社)、 『時をかける貯金ゼロおじさん』(KADOKAWA)など。

X(旧Twitter):@okeydon
ブログ:おけいどんの適温生活と投資日記 https://okeydon.hatenablog.com/

(イラスト/西田ヒロコ)

投資信託の取り崩しは、最悪の「出口戦略」

働きながら順調に資産を積み上げた桶井氏は、2020年に資産1億円、年間配当・手取り120万円を達成し、会社を退職する。

「年間120万円の配当は、月にして10万円の収入。加えて資産1億円という数字が、退職を決意する良い区切りになったと思います」と桶井氏。

退職後はさらに資産を増やすと同時に、配当投資へのシフトも加速した。

「現在は日米を中心に全世界株、高配当株、増配株、ETF、リートなどの配当投資をメインとして、アメリカを中心に成長株にも投資しています。NISAのつみたて投資枠も活用してS&P500の投資信託に投資していますが、60〜65歳を目途に売却し、配当投資に移す予定です」

桶井氏が配当投資を重視する理由は「投資信託を取り崩して老後の資金にする」という投資の出口戦略に疑問を感じているからだ。

「投資信託の取り崩しはしんどいと感じるのです。暴落したときに、投資信託の評価額が大きく減る中で、生活費のために取り崩すのは辛いと思います。また、取り崩し続けていくと、資産が枯渇するのではないかという不安も出るでしょう。投資を引退した両親が、お金が減るのは不安だとたびたび口にすることからも、人間はお金が減ることを辛く感じるようにプログラムされているんだろうと思います。老後に不安な気持ちを抱いて暮らすのは避けたいです」

若いうちは「65歳まで投資信託を続けて、定年後はそれを取り崩していけば老後は安泰!」と考えるだろう。しかし桶井氏は「メンタルという人間の弱点を忘れてはいけない」と警鐘を鳴らす。

「お金を効率よく増やすのであれば、投資信託に軍配が上がります。他方、出口戦略においては個別株やETFから配当金・分配金を得られるので配当投資に軍配が上がると思います。人間には感情(不安に思う心)や老化(判断力の低下)があることを忘れないでいたいです」

一刻も早く「じぶん年金」の準備を

そんな老後の心配を払拭できるのが、桶井氏が提唱する「じぶん年金」だ。じぶん年金とは、公的年金だけでは不足する老後の生活費を、金融商品を活用して自分で用意する老後資金のこと。

桶井氏が考える最適な投資の出口戦略は、若いうちからNISA口座を活用してインデックスファンド(インデックス型の投資信託)で積立投資を行い5000万円超の資産を築いたのち、配当投資にシフトして『個別株の配当金+ETFの分配金』による「じぶん年金」を構築するというものだ。

「配当金+分配金は定期的・自動的に証券口座にお金が入りますから、そこから生活費を得ることができれば投資信託を取り崩す必要がなくなります。じぶん年金の利点は、取り崩しによってお金が減らないという“楽さ”であり、安心感にあると思います」

桶井氏は現在、両親の介護・見守りをしながら、こども食堂など、社会貢献にも関わっている。

「投資で資産を築き、かつ配当投資というじぶん年金がなければ、両親の介護・見守りなど絶対にできなかったでしょう。これは他人事ではなく、75歳以上の3人に1人が要介護・要支援になるという統計もあります。投資によってじぶん年金を獲得することは、人生の“もしも”に備えることであり、不安な感情から逃れられない人間の弱点をカバーする唯一の方法だと考えています」

人生百年時代、自分が何歳まで生きるのかは誰にもわからない。じぶん年金は高齢化していく社会を生き抜く必須アイテムであり、一刻も早い構築のスタートが望ましい。