夫なし、子なしの50歳だった稲垣さんが朝日新聞社を退社したのは約10年前。給料のない生活に備えて家賃の安い部屋を探した。ようやく見つけた、窓は大きいが「収納スペースが一切ない」部屋に引っ越すため、家財道具のほとんどを手放すことに。それを機に、できるだけモノを買わない生活に突入する。だが、モノを買わずに生きていくことなどできるのか。本書はそんな稲垣さんの試行錯誤の経緯をつづったレポートだ。
意外なことに稲垣さんはお金を使わないことで、逆にさまざまなものを手に入れていく。冷蔵庫がなくても「ぬか漬け」があれば菌の力で野菜が腐らないことを発見し、炊飯器がなくても鍋で炊いた玄米は冷めてもおいしいと気づく。一汁一菜の粗食は毎日食べても飽きないうえに、健康まで手に入った。この生活を何と呼ぶべきか。
「よく聞かれるんですが、節約とは違うんです。ミニマリストをめざしたわけでもない。ただただ、お金についてずっと考えてきました」
読者も稲垣さんと一緒に「お金とは何か」「お金があれば本当に幸せなのか」を考えていくことになる。
ターニングポイントは、好みの本が並ぶ古書店を発見したときのこと。
「本は読みたいけど、所有はしたくない」と買うのをやめそうになったとき、天啓が降りたのだ。“何も、買うことを諦める必要なんてないんじゃないだろうか?
読みたい本があれば1冊買って、読み終わったらここに売りに来れば良いのだ。で、私はそのお金で次の本を買い、また読み終わったら売りに来て……ってことを繰り返せばいいだけなんじゃ?(中略)つまりは、「このオシャレな本屋さんが、うちの本棚」ってことにしちゃえばいいんである”
この発見が、「町全体がわが家」「隣人は家族」という考え方に発展し、稲垣さんは近所の人たちに笑顔で挨拶する「すごくいい人」へと変貌を遂げる。その結果、玄関にはご近所さんからのお裾分けが頻繁に置かれるようになる。東京の都心部での話だ。
「お金がいくらあっても、お金の不安はなくならない。でも人とのつながりがあれば、安心して生きていけるんですよね」と稲垣さん。近所のコミュニティに入るコツも書いてあり、「これならできるかも」という気になる。
しかし、これで終わりではない。お金のかからない生活を確立した稲垣さんだが、執筆や講演の収入がある。やがてたまったお金をどう使うべきかを考え始め、ある行動に出るのだ。それが何かは、ぜひ本書で確かめてほしい。
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