夫なし、子なしの50歳だった稲垣さんが朝日新聞社を退社したのは約10年前。給料のない生活に備えて家賃の安い部屋を探した。ようやく見つけた、窓は大きいが「収納スペースが一切ない」部屋に引っ越すため、家財道具のほとんどを手放すことに。それを機に、できるだけモノを買わない生活に突入する。だが、モノを買わずに生きていくことなどできるのか。本書はそんな稲垣さんの試行錯誤の経緯をつづったレポートだ。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)
稲垣えみ子(いながき・えみこ)
フリーランサー。1965年、愛知県生まれ。朝日新聞社で大阪本社社会部、「週刊朝日」編集部などを経て論説委員、編集委員を務めた。2016年に50歳で退社。

意外なことに稲垣さんはお金を使わないことで、逆にさまざまなものを手に入れていく。冷蔵庫がなくても「ぬか漬け」があれば菌の力で野菜が腐らないことを発見し、炊飯器がなくても鍋で炊いた玄米は冷めてもおいしいと気づく。一汁一菜の粗食は毎日食べても飽きないうえに、健康まで手に入った。この生活を何と呼ぶべきか。

「よく聞かれるんですが、節約とは違うんです。ミニマリストをめざしたわけでもない。ただただ、お金についてずっと考えてきました」

読者も稲垣さんと一緒に「お金とは何か」「お金があれば本当に幸せなのか」を考えていくことになる。

ターニングポイントは、好みの本が並ぶ古書店を発見したときのこと。

「本は読みたいけど、所有はしたくない」と買うのをやめそうになったとき、天啓が降りたのだ。“何も、買うことを諦める必要なんてないんじゃないだろうか?

読みたい本があれば1冊買って、読み終わったらここに売りに来れば良いのだ。で、私はそのお金で次の本を買い、また読み終わったら売りに来て……ってことを繰り返せばいいだけなんじゃ?(中略)つまりは、「このオシャレな本屋さんが、うちの本棚」ってことにしちゃえばいいんである”

稲垣 えみ子『経済不安の解消法は貯金でも投資でもなく脱・お金依存の暮らし』
稲垣 えみ子『経済不安の解消法は貯金でも投資でもなく脱・お金依存の暮らし』 東洋経済新報社/1800円+税

この発見が、「町全体がわが家」「隣人は家族」という考え方に発展し、稲垣さんは近所の人たちに笑顔で挨拶あいさつする「すごくいい人」へと変貌へんぼうを遂げる。その結果、玄関にはご近所さんからのお裾すそ分けが頻繁に置かれるようになる。東京の都心部での話だ。

「お金がいくらあっても、お金の不安はなくならない。でも人とのつながりがあれば、安心して生きていけるんですよね」と稲垣さん。近所のコミュニティに入るコツも書いてあり、「これならできるかも」という気になる。

しかし、これで終わりではない。お金のかからない生活を確立した稲垣さんだが、執筆や講演の収入がある。やがてたまったお金をどう使うべきかを考え始め、ある行動に出るのだ。それが何かは、ぜひ本書で確かめてほしい。

(インタビュー・文=長山清子 撮影=ミヤジシンゴ)

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