弁当の肉団子を落とし老いが自分事になった それでも70代は楽しい

〈私はいま80代だけど、ボケてもいないし死んでもいない。それなのにこの本の題名は何ですか!〉

読者から、こんな怒りの声が寄せられたという。確かに刺激的なタイトルだ。

「編集の方が文中から引用してつけてくれました。どうせ私も行く道だから、いいだろうと思って」と林さんは言う。作家業に加えて日大理事長も務めるなか、古希を迎え老いについて思うことが増えた。

林 真理子(はやし・まりこ)
林 真理子(はやし・まりこ)●小説家、エッセイスト。1982年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーになる。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞受賞。

「周囲の人たちを見ていると、若いころはあんなに素敵だった人が『あれっ、どうしちゃったの』ということが増えてくる。たしかに“80の壁”ってありますね」

老いが他人事ではないと気づいたのは、理事長室でお昼を食べていたとき。お行儀が良くないと知りつつ、新聞や雑誌を読みながらお弁当を広げるのが貴重な息抜きの時間だった。ところがあるとき、手を滑らせて肉団子を落とし、白いブラウスにシミをつくってしまったのである。

「もう箸の使い方もおぼつかなくなっているんだから、いままでと同じことをしていちゃいけないんだ」と痛感。自戒をこめて、『70になったらしてはいけない100のこと』なんて本を書いたら売れるかもね……と、「週刊文春」のエッセイに書いた。それを読んだ編集者たちから「ぜひ、うちで出しましょう」という申し込みが殺到するかと思いきや、申し出があったのは幻冬舎だけだったという。結果、なんと31万部の大ベストセラーとなった。

年齢を重ねたことによるトホホな体験をユーモラスに告白する一方で、「もうじきみんな死んでいく」「あっという間にまわりがいなくなることは想定すること」などシビアな項目が並ぶ。

「70代はまだまだ気力、体力もあるしお金もある。神様がくれたいい時間ですよ。この10年間を大事にしようというのが、いちばん言いたかったことです」

今年の6月に日大の理事長を任期満了で退任した。

「これからは歌舞伎もオペラも宝塚も好きなときに行ける。流行りのピックルボールも始めたし、楽しみなスケジュールがいっぱい。これが生きるエネルギーですね」

(インタビュー・文=長山清子 撮影=門間新弥)

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