※本稿は、林真理子『成熟スイッチ』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
キャパ超えを楽しむ
人間って変われるんだなあと実感します。
私は「お金、お金」と言うわりにはお金の細かい話が大の苦手で、うちの税理士さんの報告を聞くだけであまりにめんどうで、思わず身体をよじってしまうような人間でした。しかし、日大の理事長になってからは毎日のように、財務の話、広報の話、さあ決裁します、なんていうことをやっている。わかりやすく説明してもらっているからですが、お金の話も身をよじらずにちゃんと聞けるようにもなりました(当たり前か)。
法令文を読む機会も多いのですが、作家として言わせてもらうと、とんでもない悪文中の悪文ばかり。最初は悲鳴をあげていましたが、その悪文にもだいぶ慣れてきました。
とはいえ、いきなり大企業のトップになってしまったようなもので、自分のキャパを超えていると思うこともしばしば。思わず弱音をもらしたところ、大学の顧問を引き受けてくださっている宮内さん(オリックス シニア・チェアマンの宮内義彦氏)が、
「僕なんかずーっとキャパ超えたことをやってきたんだよ。こんな経験は二度とないんだから、思いっきり楽しみながらやりなさいよ」
と言ってくれました。「楽しみながら」の一言のおかげで、張り詰めていた心がスッとラクになったのです。
背伸びなくして成長なし
理事長になったことに後悔はありませんが、仕事に慣れてくるほど、うわー大変、と思うことが増えていきます。目の前には壁がいっぱいあって、乗り越えなければいけない。こちらの考えている議案をなんとか通そうと、政治家みたいなことをしたり。
もし、こんなに大変だと知っていたら引き受けなかったかもしれません。でもやるとなったら、人間力を試されていると思って懸命にやるしかない。
背伸びなくして成長なし。この言葉を胸に真剣に働き続ける日々です。