パエリアに必須の食材、ムール貝。日本ではカキの繁殖場や発電所で大量に繁殖して問題になっている。元水産庁職員の上田勝彦さんは「ムール貝は貝類の中でも有数のはっきりした味のダシが出る。他の食材と合わせて『ダシの相乗効果』を得るうえで最良の貝だ」という――。

パエリアに必須の食材

ツキノワグマ、イノシシ、シカ……。各地で獣害のニュースを耳にする。一方で、増えすぎた野生動物をジビエとして美味しく食べる習慣も日本社会に浸透しつつある。鹿肉カレーぐらいならばレトルト食品でも手に入るようになった。

貝類や甲殻類なども人間の社会活動を邪魔することがある。海辺に住んでいる筆者がよく聞くのはフジツボ。船底に強固に付着して燃費を悪くしたり排水を阻害したりする。

食べれば美味しいらしいが、意外な「害貝」はベルギー観光の定番料理とも言えるムール貝。金属製のバケツに山盛りで出てくる黒い二枚貝だ。パエリアにも必須の食材。日本に生息しているとは筆者は知らなかった。

外来種のこの貝、戦前に外国船の船底に付着して持ち込まれたとされ、日本ではムラサキイガイと呼ばれることが多い。ちなみに在来種はイガイだ。

鮮魚店で見かけた生のムール貝。実は国内で猛烈に繁殖しています
筆者撮影
鮮魚店で見かけた生のムール貝。実は国内で猛烈に繁殖しています

養殖場や発電所を襲う驚異の繁殖力

ムール貝は繁殖力が強く、ホタテやカキ、真珠の養殖施設全体に付着してしまうらしい。もしかして、ホタテの不漁と値上がりに影響しているのだろうか?

「ホタテ不漁の主因は海水温の異常です。ただし、ムール貝がホタテ養殖の邪魔になっていることは確かですね。ホタテの養殖カゴにびっしりと付着するので、貝が小さいうちに選別して除去してしまわないと、カゴが重くて引き上げられなくなってしまいます」

冷静に答えてくれたのは、青森県産業技術センターのホタテガイ振興室の吉田雅範さん。副産物としてムール貝も出荷する漁師もいるとのことだが、ホタテほどの価格にはならずに邪魔者扱いされることが多いという。

ムール貝は火力・原子力発電所でも問題となっている。冷却水として利用している海水を導く水炉系内部に大量に付着。冷却効率が下がったり、最悪の場合は発電所の停止に至ったりするのだ。