個性豊かな鉄道車両の座席にはどんなこだわりが詰まっているのか。鉄道車両デザイナーの南井健治さんは「よい座席を提供することは永遠の課題だ。文化や慣習をはじめ乗る人の体格はもちろん、時代のニーズに沿った座席の設計も大切だ」という――。

※本稿は、南井健治『鉄道車両デザインの教科書』(イカロス出版)の一部を再編集したものです。

鉄道の車内
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電車は座り心地が重要だ

昔の国鉄では、固定している座席のことを「腰掛」といい、それ以外のものを「椅子」といっていた。背刷りを転換させることで前後方向を変えられるものを「転換腰掛」、回転して方向転換するものを「回転腰掛」、そしてリクライニングシートのことを「自在腰掛」と呼んでいた。

昔は生活の中に椅子は少なく、椅子に対する関心はそれほど高くなかったが、最近はほとんどの家庭にはソファやダイニング用の椅子、勉強用の椅子があり、鉄道車両としての特殊性よりも椅子全般の機能性から検討すべき、と考えるものであり、ここでは「座席」という言い方をする。

座席は利用者が最も直接接するものであり、インテリアの評価も座席に負うところが極めて大きい。

飛行機のようにシートベルトを備えていて、ずっと縛り付けられるということはないが、乗車中はほとんどが座席で過ごすことになり、座席のデザインやすわり心地で疲労度も変わる。しかしこれほど重要なものであっても、これがベストだ、というものが言えないのも事実である。

人間工学やエルゴノミクスに十分な配慮をしていても、座られる利用者の体格や体重はさまざまであり、すべての人に満点の座席を作ることは不可能ともいえる。

サンダーバードのグリーン車の秘密

681系サンダーバードのグリーン車は、金沢‐大阪を往復される自家用車移動の方を電車に取り込もうというコンセプトで、包み込まれる雰囲気とすることで個人客のプライバシー性を重視した、少し大きな座席が採用されている。

681系特急サンダーバード
写真=Wikimedia Commons
681系特急サンダーバード(写真=継之助/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

ある時、見ると体の小さいお年を召した女性が実に座りにくそうにされている。想定よりも小さな体格なので座席に体が埋まってしまっているのである。

ドイツの椅子はよくできているという話をよく耳にする。ベンツのシートは長時間運転しても疲れない、ICEの座席は硬めだが座り心地がいいといった具合に。たしかに、ドイツの自動車も鉄道車両も皆座席は硬い。だから硬いものがいい、という神話にまでつながっているのであろう。

対して隣のフランスは柔らかい座席が多い。座面も背刷りも柔らかくてホールド性やクッション性が高いのである。ドイツとフランスの椅子メーカーと仕事をする機会があったので、その辺の話をすると、彼らは座姿勢やホールド感についていかに自分たちがお金をかけて研究しているか、という話をとうとうとする。

お互いにこれがベストであるというのである。そこでふと気がついたのが、それぞれの国の平均体重であった。ドイツ人の方が体が大きい=重いのである。