認知症の発症は、生活習慣の改善によって遅らせられることがわかってきた。最新の疫学研究が明らかにした、早期に手を打つべきリスク因子とは。年代ごとに見落としがちなポイントを、疫学研究の第一人者に聞いた。

50代までのメタボ対策をそのまま続けていないか

60代になったら、体づくりの考え方を切り替える必要があります。

40代、50代ではメタボリックシンドロームを気にしてこられた方が多いでしょう。メタボ対策が大切なこと自体は間違っていません。太りすぎは確かによくない。ただし65歳を過ぎると、痩せすぎにも注意が必要です。

私たちが国内8地域で実施した大規模認知症調査でも、BMIが18.5未満の高齢者は認知症の発症リスクが高く、BMIが低いほど発症率が高いという結果が出ています。この調査で発症率が最も高かったのは、痩せていて高血圧を持つ高齢者でした。

40代、50代のメタボ対策をそのまま持ち込み過度な減量を行えば、認知症の発症リスクを高めることになりかねません。重要なのは、筋肉の「量」ではなく「筋力」を維持すること。久山町のデータでは、握力と歩行速度の低下が認知症の発症リスクの上昇と関連しました。

あなたは食品の「蓋」を自力で開けられますか。ジャムや佃煮の瓶に使われている金属の蓋が開けられないなら、握力が落ちているサインです。ペットボトルの蓋が開けられないとしたら、握力がかなり落ちてしまっていると考えてください。

横断歩道を走らず、点滅するまでに渡り切れますか。横断歩道の信号は、だいたい秒速1メートルを目安に設定されています。渡り切れなくなっているとしたら、歩行速度がかなり低下してしまっています。

いずれも医学的な診断ではありませんが、自分の状態をいち早く知るきっかけになります。もし筋力が弱ってきていると感じたら、早めに手を打つ必要があるでしょう。

筋力を保つ方法は、決して難しくありません。ジムに通う必要もない。時間がなくてもお金がなくても、運動はできます。まずは歩くこと。下半身の筋肉を使うことが、そのまま全身の運動になります。加えて、食事の前に軽くスクワットを10回。深く沈める必要はありません。1日3食なら30回です。買い物にも、なるべく歩いて行くといいでしょう。

【図表1】60代からは体重管理・食事・運動の考え方を変える

軽度認知障害と診断後に正常域に戻った人の特徴

最後に、認知症の手前の段階である軽度認知障害(MCI)の重要性に関するデータをお伝えします。MCIと判定された方を追跡したところ、5年後に約30%の方が正常域に戻っていました。戻った方には、血圧が低い、糖尿病がない、握力が強いといった特徴が見られました。

これは観察された関連であって、血圧や運動が回復させたと言い切れるものではありません。それでも、正常に戻る方がこれだけおられるのも事実です。認知機能の低下は、誰にでも起こりえます。必要以上に恐れるのではなく、早い段階から自分の状態を知り、適切に対応していくことが大切です。何歳からでも、遅すぎるということはないのですから。

(構成=本誌編集部 イラストレーション=岸 潤一 図版作成=大橋昭一)