認知症の発症は、生活習慣の改善によって遅らせられることがわかってきた。最新の疫学研究が明らかにした、早期に手を打つべきリスク因子とは。年代ごとに見落としがちなポイントを、疫学研究の第一人者に聞いた。

40代 健診で指摘された血圧を放置しない

40代は、仕事の負荷が最も重くなる時期です。だからこそ、自身の健康を後回しにしがち。血圧が高い、血糖値が高いと指摘されても、「まだ若いから大丈夫」「忙しくて病院に行く時間がない」と考えて、そのままにしてしまう方が多いのです。

一方、久山町の調査で繰り返し重要性が示されてきたのが、まさに中年期の血圧でした。

65歳から79歳の住民を17年間追跡した調査があります。中年期と老年期、それぞれの時点の血圧を調べ、その後に血管性認知症を発症するかどうかを見たものです。

その結果、中年期に高血圧だった人は、老年期の血圧が正常でも、両時期とも正常だった人に比べ、血管性認知症のリスクが約5倍高く出ました。中年期から血圧を管理する重要性を示す結果です。逆に中年期に高血圧を避けられた方は、その後の血管性認知症の発症リスクが低く出たのです。

【図表1】中年期の高血圧は認知症の発症リスクを高める ●中年期から老年期の血圧推移と血管性認知症の発症リスク
※二宮氏「Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly:the Hisayama study(2011)」を基に編集部作成。高血圧は140/90mmHg以上。

もちろん、老年期からの血圧管理が無意味ということではなく、対策は何歳からでも重要です。ただ、40代で受け取る健康診断の結果は、20年後、30年後の脳の状態につながっていることはもっと知られていい。もし健康診断で指摘をされたら、できるだけ早めに手を打ってください。薬が必要な段階であれば、きちんと薬を飲む。それだけで、脳に加わるダメージはずいぶん違ってきます。

日々の生活で特に改善してほしいのは食事です。40代の方の食生活を伺っていると、昼は牛丼やラーメンで済ませ、夜は付き合いでお酒、という方が少なくありません。塩分過多の乱れた食生活は、高血圧に直結します。

基本は、多様性のある食事をとること。プロテインのようなサプリメントに頼るより、いろいろなおかずをしっかり食べたほうが、摂れる栄養素は増えます。久山町のデータで良好な結果が出ているのは、コメなどの主食中心の食事より、緑黄色野菜、淡色野菜、豆類、海藻類、牛乳・乳製品などのさまざまな食品をとる食生活でした。また、お酒を控えることも大切です。こうした食生活を送っている調査対象群では、認知症の発症リスクが約0.7倍と低くなっていました。

個人的にお勧めしたいのは、豆類は納豆。それからご飯を雑穀米にすること。白米だけだと糖質に偏りますが、雑穀米なら豆類も一緒に摂れます。

白米より食物繊維やビタミン、ミネラルを摂りやすい点で玄米は優秀です。しかし、私自身はあまり玄米が好きではないので、精米機で米を七分づきにして、十六穀を混ぜて炊いています。

もう一つ、最近注目している食材はきのこです。きのこや一部の菌類が作り出せるエルゴチオネインというアミノ酸は、体内で炎症や酸化を抑える働きがあると考えられています。久山町の高齢住民を対象に検査を行ったところ、血液中のエルゴチオネインの濃度が高いほど認知症を発症しにくいという関連が見られました。

(構成=本誌編集部 イラストレーション=岸 潤一 図版作成=大橋昭一)