日本ではクマによる人身被害が相次いでいる。世界にはそれを上回る数の命を奪う生物がいる。BBCの報道によると、ワニに襲われて亡くなる人は年間約1000人に上るという。その実態はどのようなものか。ワニ研究者である福田雄介さんの著書『もしも人食いワニに噛まれたら!』(青春文庫)より、一部を紹介する――。
クロコダイルの歯
写真=iStock.com/PaulMorton
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絶体絶命のピンチを救った「とっさの反撃」

今にもワニが飛びかかってくるという状況で、無事に事なきを得た話があります。

オーストラリアのクイーンズランド州で、ある人が夕方に川岸に立って釣りをしていたところ、ついつい夢中になってルアーを投げるうちに、あたりはすでに薄暗くなってしまいました。

その人がふと前方に目をやると同時に、背筋が凍りつきました。ほんの3~4メートル先の水面の下から大きなワニがこちらを見ていたのです。

そのワニは獲物を狙い定めたかのように、静かに近づいてきています。今にも水面から飛び出し、噛みついてくる様子です。

ふつうなら気がついた瞬間に大慌てで後ろに逃げるところですが、幼いころから現地のワニを見て育っていた彼は、音を立てて逃げようとすれば、その瞬間にやられてしまうと本能的に悟り、一歩も動けませんでした。まさにヘビに睨まれたカエル。絶体絶命のピンチです。

その瞬間、その人は手に持っていた釣り竿をなかば無意識に小さく素早く振って、竿先に付いているルアーでピシッと水面のすぐ下にあったワニの鼻先を鋭く叩いたのです。

ワニに襲われたときの死亡率は50%

もちろん物理的に考えれば、そんな小さな物で叩かれてもワニは痛くもかゆくもありません。ですが、そのワニからすれば、狙っていた獲物から突如不可解な攻撃を受けたのです。思わぬ反撃に驚いたワニは、すっと水に潜って岸から少し距離をあけました。その隙にその人は大きく後ろに跳び下がって九死に一生を得たという話です。

もしあの時、竿で瞬時に抵抗をしていなければ、まったく違う結末になっていただろうと後に本人が語っています。

専門家が集めたあるデータベースの統計によると、2011年から2020年の10年間で、66カ国3600件以上のワニによる人身事故が発生し、その被害者の半数近くの1716人が死亡したと報告されています。つまりワニに襲われると、約50パーセントの確率で亡くなってしまうわけです。

では、その直接の死因は何かというとちょっと意外なことがわかります。詳しく調べてみると、ほとんどの場合の犠牲者は溺死しているのです。これは、サメに襲われた犠牲者の多くが失血死しているのとは対照的です。

また、ワニの事故というと、あの大きくて強力なあごとたくさんの鋭い歯の噛みつきによる外傷性ショック死が真っ先に思い浮かびますが、実際はその前に溺死してしまうことが多いようです。先述のとおり、ワニは人間を襲っても、その大きさゆえにすぐに引きちぎって食べたりせず、まずは獲物を水中に引き込む習性があるためです。