認知症の発症は、生活習慣の改善によって遅らせられることがわかってきた。最新の疫学研究が明らかにした、早期に手を打つべきリスク因子とは。年代ごとに見落としがちなポイントを、疫学研究の第一人者に聞いた。

心置きなく話せる相手を何人思い浮かべられるか

「ランセット」の整理では、社会的孤立は高齢期の因子とされています。65歳を過ぎてから影響が出るもの、という扱いです。

しかしながら、孤立には日頃の人間関係や生活習慣も関与すると思います。

50代はまだ仕事に身を置いている人がほとんどのため、人間関係も仕事を介したものが多くなりがちです。同僚、取引先、部下。働いている間は、彼らとの関係がいつまでも続くように錯覚しますが、定年を迎えると関係が疎遠になるのは珍しくありません。会社という足場があるうちに、会社のみではない人間関係を充実させることも大切でしょう。

知り合いが何人いるかという人数ではなく、心置きなく話せる人を大切にしたいものです。もちろん、相手は家族でも構いません。

こうした人間関係を築いていくうえでは、ものの考え方も関連するでしょう。常に文句を言い、人を否定してばかりいる人とは、お付き合いを避けたくなりますよね。相手を尊重する。褒める。楽しく話す。ポジティブに人と接することができる方のほうが、良好な人間関係を築きやすいでしょう。

前向きで過ごせるようになるためには、人と関わり、一緒になって楽しめることを見つけるといいでしょう。何をするかは、ご自身の興味や好みに合わせて選べばよいと思います。大切なのは、一人で完結させず、人とのつながりを持つことです。

【図表1】定年前後で人間関係は大きく変化する ●困ったときに「仕事・学校関係者」に頼れると答えた人の割合
※内閣府孤独・孤立対策推進室「令和7年人々のつながりに関する基礎調査」を基に編集部作成

興味深い例として、社交ダンスが認知機能の維持に良い影響を与える可能性を示した研究もあります。体を動かすだけでなく、人と交流したり、人前に出るために身だしなみを整えたりすることも、良い刺激になっているのかもしれません。

少し変わった取り組みでは、愛知県豊田市で高齢者向けのドローン操縦教室が開かれ、多くの参加者を集めているそうです。

「面白そうだ」と思って外に出てみれば、そこで新しい人との出会いも生まれます。大切なのは、さまざまなことに興味を持ち、人と関わる機会をつくることだと思います。

私がお勧めしているのは、料理です。

(構成=本誌編集部 イラストレーション=岸 潤一 図版作成=大橋昭一)