脳の老化を防ぐのに、難しい脳トレは必要ない。日常の行動を工夫するだけで、衰えに抵抗できる。いつまでも若い脳でいるために今日できる新習慣を、脳科学者が教える。

脳内で使う部位が多いほど若返る

できたことができなくなる、覚えられなくなる――日常の「できなさ」という形で脳の老化を感じる方は多いでしょう。

「脳の老化」とは、物理的に脳が萎縮することです。若いころの脳は頭蓋骨いっぱいに詰まっていますが、年を重ねると隙間ができます。考える働きそのものを担う表面も、表面同士をつないで信号を伝える内側も縮んでいく。使われない神経細胞は生きたまま小さくなって働きを失っていきます。

では、なぜ縮むのか。原因の一つが、神経同士のつながりが新しく伸びなくなることです。

神経の先端からは、刺激を受けると新しいつながりが伸びてきます。スパインと呼ばれるもので、増えるほど脳は強くなりますが、年を重ねると出にくくなります。

なぜ出にくくなるのか。新しいつながりは、新しい経験をしたときに生まれるからです。同じことの繰り返しでは増えません。人生経験を重ねるほど、初めての経験は減っていくものでしょう。

同じ道を通り、同じ人と話し、同じやり方で仕事をする……固定化された習慣を繰り返していると、脳の同じ部位ばかりを使うことになります。それにより、脳の使われない部位はどんどん老けていきます。なかでも特に衰えやすいのが、判断力を担う前頭前野、記憶を担う海馬です(一部ですが、共感力を担う前帯状皮質も含まれます)。

逆に言えば、日常的に使わない部位を活性化させることで、脳の老化を遠ざけることができます。

集中して脳を使っている時間が長ければいいというわけではありません。仕事を詰め込んでいる人は、同じ場所ばかり酷使していることがあります。しかも忙しさはストレスを生む。ストレス下では血管が収縮して血圧が上がり、老化を進める方向に働きます。脳を使っているつもりでも、ストレスのほうが勝ってしまうのです。大事なのは、普段使っている部位とそうでない部位があることを認識し、意識的に「脳の切り替え」を行うことです。

難しい脳トレの問題集に向き合う必要はありません。毎日の習慣の取り組み方を、少し変えるだけで十分です。

物覚えや能力のピークは年齢によって違います。名前を覚える力は22歳、顔を見分ける力は32歳。集中力は43歳、共感力は48歳、語彙力は67歳と、40代、50代でもまだ伸びている力があるのです。この年齢はあくまで平均的な傾向で、その年齢から一律に落ちるわけではありません。上手に頭を使える人ほど、ピークは後ろにずらすことができるのです。

(構成=本誌編集部 イラストレーション=岸 潤一 図版作成=大橋昭一)