×料理をすぐ食べる ○食材一つひとつの香りを言い当てる
ドーパミンの分泌で脳の老化に抵抗
一日3回の食事では、噛むことで体性感覚野、運動野、視床、小脳を含む脳の広い領域を活性化させ、脳血流量まで増えるため、海馬を中心とした認知機能と関連することもわかっていますが、脳のためにもう一つ意識してもらいたいことがあります。
料理をすぐ口に運ばず、まず香りを嗅いでみてください。「これは何の香りだろう」「何が入っているのだろう」と考えてみるだけで結構です。
香りを嗅いで何の香りかを思い出せると、心地よさややる気を引き出す、報酬系という脳内のネットワークが活性化します。この報酬系には、私たちがやる気や意欲が出るときに分泌されるドーパミンという神経伝達物質が関係しています。ただ、ドーパミンは年齢を重ねるとともに減っていってしまい、脳内ネットワークも衰えていきます。ドーパミンが分泌される習慣を取り入れることで、脳の老化に抵抗できるのです。
報酬系が活性化する脳の仕組みのなかで私が「香り」を思い出すことをおすすめするのは、理由が2つあります。一つは、私たちは普段、においをほとんど意識していないこと。嗅覚を受け持つ嗅皮質は、意識して使うことの少ない場所です。
もう一つは、目で見たものに比べ、においそのものの記憶は呼び出しにくいことです。あまり気に留めない嗅覚を意識的に刺激し、思い出しにくいにおいそのものにフォーカスすることは、脳全体の活性化に効果を期待できます。それをストレスなく意識できるのが、日常の中で欠かせない食事の場面なのです。
最近飲んだ味噌汁のにおいを思い出してみてください。すぐに浮かんだ方は、その香りの記憶が鮮明だということ。脳のネットワークがきちんと働いている証拠です。浮かばなかったとしても、これから意識して鍛えることができます。
食卓では食べる前に一度、香りを嗅ぐ。そして言葉にしてみる。何のスパイスだろう、隠し味に◯◯が入っているんじゃないか、と考えてみてください。家族と食卓を囲んでいるなら、これは何の香りだと思う、と聞いてみるのもいいでしょう。
この一連の動作で、においを受け取る場所、記憶を引き出す場所、言葉を扱う場所が同時に働き出します。普段は別々にしか使っていない場所がつながるのです。
この時に嗅いだにおいの情報は、変わった刻まれ方をします。目や耳から入った情報は、いったん別の場所を経由してから脳の各所へ届きますが、においは、記憶をつかさどる海馬や、感情に関わる扁桃体へ直接つながっています。実家のにおいを嗅いだときに過去の記憶が浮かぶことがありますよね。紅茶に浸したマドレーヌの香りで記憶がよみがえる小説に由来する「プルースト効果」というものです。においが記憶や感情を強く揺さぶるのは、脳の記憶に関わる海馬と感情に関わる扁桃体への近道があるからです。
においを嗅いで、何のにおいかを思い出すのに慣れてきたら、少し欲張ってみてください。この香りは何に似ているだろう、どこで嗅いだことがあるだろう、と記憶をたどってみる。子供のころに食べた給食のカレーのにおいだ、と思い当たるかもしれません。そうやって過去の場面と結びつけると、さらに「思い出す」のに脳を使い、その結果、報酬系が活性化して、脳の活性化につながる効果が期待できます。
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