トヨタの改善活動はいまや販売店まで広がっている。しかし、その必要性を現場はどこまで自覚できているのか。あるとき、佐賀トヨタ社長・金子晴雄は自分の考え違いに気づき、会社は大きく変わっていった――。

「30年かかった。だが、まだまだだ」 みんな、困っていることがある

“まだやれる余地があったのではないか。TSLによる現場オペレーションの改善など――”

2026年2月、江東区の有明にあるトヨタアリーナ東京に、国内にあるトヨタ販売店のトップ、約280人が集った。販売店代表者会議という。年に一度、トヨタと販売店のトップが車と顧客へのサービスについて胸襟を開いて語り合う会議だ。近年のテーマは販売と物流の改善についてがほとんどだ。

販売、物流の改善は会長、豊田章男が課長になった1990年代前半から始まった。トヨタ生産方式を販売と物流に応用する改善活動である。だが、長い間、販売店には浸透しなかった。多くの販売店が、この活動を受け入れてこなかったのには理由がある。

トヨタの販売店は独立経営だ。そして販売店とはメーカーのトヨタから車を仕入れて、顧客に販売する立場にある。販売店は仕入れ側であり、メーカーの声に耳を傾けない販売店も少なくなかったのである。とりわけ自力で会社を立ち上げた創業者の世代は「自分たちがトヨタの車をひろめてきた。売ってきた」という強烈な自負心を持っていた。メーカーから「販売と物流の改善活動をしましょう」と言われても、すぐには受け入れなかったのである。

それがやっと変わり始めた。会議の日、販売店側の代表としてスピーチしたのはト販協(トヨタ自動車販売店協会)の金子直幹理事長(福岡トヨタ代表取締役社長だった。彼は話のなかでTSL(Toyota Sales Logistics、トヨタ販売物流方式)に触れ、「トヨタ販売店にとっては改善は使命」と言い切った。

会場にいた豊田章男は「ここまでに30年かかった。だが、まだまだだ」と思ったのではないか。

トヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」には金子の挨拶が載っている。

「1つは昨年の年間販売台数が150万台に届かなかった悔しさです。たった今、台数より大切な挑戦をしていると申し上げたばかりですが、国内生産300万台、うち半分の150万台を国内で販売する。これは“日本のモノづくり”を維持する上で、絶対に死守しなければならないラインだと思っております。(略)昨年の147.8万台は、受注停止やクルマが思うように届かなかった中で、J-SLIM(販売物流統合管理システム)を徹底的に活用したリードタイムの短縮など、工夫を凝らし現場の一人ひとりが汗を流しながら積み上げて来た尊い台数です。(略)

ただ、その中でまだやれる余地があったのではないか。TSLによる現場オペレーションの改善など、もっともっと改善を重ねれば、国内で150万台の販売を死守できたのではないか」

2022年から本格的な導入が始まったTSLについて、販売店の代表がごく当然のことのようにスピーチに織り込むようになったのは進歩だ。販売物流の改善活動はじりじりと進んでいる。

だが、なかにはまだ改善活動を始めたばかりの販売店がある。

(イラストレーション=浅妻健司 撮影=本誌編集部 写真提供=トヨタ自動車(金子晴雄氏))

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