センチュリーを運転するのは、オーナーではなく専属ドライバーだ。開発にあたり、彼らの声は欠かせない。豊田章男にも、専属ドライバーがいる。ショーファーのプロフェッショナルしか知らない、超一流のための心遣いとは。

どうすればセンチュリーに乗る富豪とVIPの気持ちが聞けるのか

センチュリーを聡明と表現したのはこれほど絶え間なく進化を続けている車は他に考えられないからだ。センチュリーは一日に2台ほどの生産だ。ほぼ手づくりだから、一台を組み上げる時間は他の車種よりも長くかかる。時間はかかるがその代わり、生産工程で小回りが利く。顧客からのフィードバックがあれば、製造中の車両にすぐに改善点を生かすことができる。

ただし、改善には客からの的確な評価が必要だ。センチュリーの乗り心地や細部に対して「客」から反応がなければ、どこをどう改善していいのか開発者も見当がつかないのである。これが普通の乗用車であれば、開発者自身がオーナードライバーの気持ちを汲むことができる。

しかし、センチュリーのようなショーファーカーの場合、企業のサラリーマンである開発者は富豪やVIPのようなオーナードライバーに成り代わることはできない。生活環境が違うから富豪としての感想を言うことはできないのである。仮にセンチュリーに乗っていて、不都合を感じたとしても、「まあ、いいか」と問題にしない恐れがある。

また、現在、センチュリーに乗っている富豪とVIPが乗り心地にちょっとした違和感を覚えたとする。しかし、彼らは違和感程度では販売店にクレームを言ったりはしない。なんといっても彼らはVIPだ。企業の会長、社長だろう。仕事のことに意識は集中しているから、移動のために使っている車の乗り心地や細部のデザインまで考えてみようとは思っていない。センチュリーに乗る客にとって同車は「自分の車」ではない。まして、運転するわけではないから、アクセルやブレーキの利き具合について意見を言うことはできない。そもそも乗っている時間は自宅から会社へ行くまで、あるいは休日にゴルフ場に行くまでの時間にすぎない。渋滞に遭ったことに対してドライバーに不満を漏らすことはあるだろうけれど、それ以上、車について考えることはおそらくない。

センチュリーを売った販売店の担当者だって、多忙なVIPに対して「乗り心地を詳しく知りたいので、1時間ください」とは絶対に言えない。ドライバーに感想を聞くことはできても、「客」に直接、会って話を聞くことはまず実現しない。

センチュリー開発に必要なのは一体だれの「声」なのか

ショーファーカーの開発、改善では車両や乗り心地について、厳しい意見、アイデアを言ってくれる客を見つけるのが難関だ。開発者はVIPの気持ちを手探りで想像することしかできない。

「会長は高齢で疲れやすいからシートはとにかく柔らかくしよう」
「社長が深く座ることができるように後部座席はソファのようにしよう」

開発者は会長でも社長でもないから、想像と推測でしか考えることができない。

庶民が開発して富豪が乗る車がショーファーカーだ。富豪やVIPが自身で開発に参加したショーファーカーはこれまで存在しなかったのである。

ところが、センチュリーSUV型だけは違う。コンセプトの決定から開発をリードしたのは豊田章男だ。開発しながら、マスタードライバーとして自ら試乗し、乗り味を決めた。客としても乗り込み、シートの柔らかさから細部のデザインについて感じたことを細かく伝えた。センチュリーにおいては、マスターパッセンジャーでもある。そして、販売後の今もまだ開発者としての改善は続いている。