習近平国家主席率いる中国がフェイクニュースを流し、他国やその要人を貶めるような工作を仕掛けていると国内外の研究機関が指摘している。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「日本は主な攻撃対象になっているが、その作戦が失敗し、巨大ブーメランとなって自国民が苦しむ事態になっている」という――。
中国人民革命軍事博物館の大型画面に映し出された習近平国家主席=2026年2月13日、北京(共同)
写真提供=共同通信社
中国人民革命軍事博物館の大型画面に映し出された習近平国家主席=2026年2月13日、北京(共同)

中国が世界にバラまくフェイクニュースの中身

ネット社会では情報があっという間に拡散します。もし、ある国が隣国を攻撃するために「わざとウソの情報(偽情報)」を流したらどうなるか。当然、その偽りの情報は隣国に大被害をもたらすでしょう。

しかし、相手に投げつけた武器が、そのまま自分に飛んで戻ってきて、自国に大ダメージを与える可能性もあります。いわば「巨大なブーメラン」になるのです。

日本の福島第一原発の処理水放出をめぐり、中国は多くのフェイクニュースを仕掛けました。SNS「微博(ウェイボ、Weibo)」や「抖音(ドウイン、中国版TikTok)」などで、「日本が核汚染水を放出している。わが国の生態系や生命に影響はないのか」といった趣旨の説明文とともに、海に真っ黒な汚染水が大量に流れ込む動画を拡散しました。

元の投稿は短期間に再生されましたが、フランスの報道機関 AFPがチェックしたところ、その動画は偽情報と判定されました。実際の映像は福島ではなく、2020年にメキシコのアカプルコ湾で発生した下水道の破裂・流出事故を撮影した報道の流用であることが突き止められたのです(1)

また、漁船の網にかかった超巨大タコや、人間よりも大きなエビやロブスターとされる画像・動画を拡散したこともありました。「日本の核廃水を含む海域で発見された変異生物」といったキャプション付きで。これも、台湾の民間非営利団体や、産経新聞の報道により偽情報(捏造)と結論づけられました。画像・動画は生成AIによって作成された実在しない生物の画像、または既存の画像をつなぎ合わせたデジタル合成であると確認されています(2)

恐怖をあおる作戦の始まり

福島第一原発のALPS処理水の海洋放出開始されたのは2023年8月のこと。何年もの準備期間を経て、国際社会の厳しい監視のもとで行われたものです。水はWHO(世界保健機関)の飲料水基準よりも安全なレベルまで浄化・希釈されており、国際原子力機関(IAEA)も「国際的な安全基準に完全に合致している」とお墨付きを与えました。

しかし、中国政府はこれを政治的に利用しようとしました。安全な処理水を「核汚染水」と呼び、国営メディアを使って中国国民に科学的根拠のない恐怖を植え付けたのです。そして、日本産水産物の「全面輸入禁止」を発表しました。

当時、中国は日本のホタテなどの最大の輸出先でした。習近平率いる中国は「日本に経済的な大打撃を与えれば、日本は屈服するだろう」と計算したのです。