収入が増えれば、その分だけ貯金も増える。そう考えがちだが、現実は必ずしもそうならない。「大義名分」とともに支出も増えていくという。投資系インフルエンサーの投資うさぎさんによる資産形成を学べる実用ノベル『給料だけでは、お金持ちになれないから 32歳会社員が資産1億円にする、ほったらかし王道投資』(KADOKAWA)より、紹介する――。(第1回)
クレジットカードを財布から取り出す男性
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「管理職たるもの、まずは身だしなみからだ」

新年度、課長代理の辞令が正式に発表された和久野真中わくのまなかは、ある休日、百貨店の紳士服売り場にいた。

課長代理になり、取引先の前に立つ機会も増える。代理とはいえ管理職は管理職だ。今まで以上に身だしなみを見られるかもしれない。

まだ給与には反映されていないが、ここでスーツを新調しておくべきだろう――。

そう自分に言い聞かせながら、真中は売り場を見て回っていた。

これまで着ていたのは、セミオーダーチェーン店で買ったスーツだ。購入したときは「ワンランク上の生地」を選んだつもりだった。だが、百貨店に並ぶスーツを前にすると、急に安っぽく見えてくる。

「どのようなスーツをお探しですか」

店員に声をかけられ、真中は答えた。

「仕事用で。最近ちょっと立場が変わりまして」
「ご昇進ですか。おめでとうございます」

管理職になったとは言っていない。それでも店員はすぐに察した。

百貨店の店員の言葉や応対から、自分が大切に扱われていることが伝わってくる。その感覚が、なんとも心地よかった。

案内されたのは10万円前後の価格帯だった。

まず7万8000円の国産生地。次は9万8000円のイタリア製。そして11万9000円の、さらに上のイタリア製生地。

「管理職の方には、こちらをお選びいただくことが多いですね」

3着を触り比べる。

7万8000円でも、今持っているスーツより明らかにいい。しかし9万8000円を触ったあとでは、少し物足りない。かといって11万9000円は、さすがに背伸びしすぎだろう。

気づけば、真中の指は9万8000円の生地の上で止まっていた。