中国がひっきりなしに発信している日本に関する“偽情報”にどう対抗すればいいのか。国際基督教大学のスティーブン・R・ナギ教授(政治学・国際関係学)は「友好国でさえ、今も日本=フジヤマ・サムライ・アニメというイメージしか持たないケースが多い。それは日本の対外的な発信が弱いことも要因。そのため、習近平が世界に拡散している『日本が再軍備化』という間違った情報が固定化されかねない」という――。
北京冬季五輪・パラリンピックを総括する演説で笑顔を見せる中国の習近平国家主席=2022年4月8日、北京の人民大会堂
写真=共同通信社
北京冬季五輪・パラリンピックを総括する演説で笑顔を見せる中国の習近平国家主席=2022年4月8日、北京の人民大会堂

日本=フジヤマ・サムライ・ポケモンでいいのか

海外で日本について語られるとき、昔も今も「富士山」「芸者」「侍」「すし」「アニメ」といった言葉が並びます。最近では「ポケモン」「ワンピース」「マリオ」といったキャラクターの名前も加わりました。こうした文化は、日本が世界に誇るべき財産です。実際、アニメやゲームをきっかけに日本語を学び始めた若者も多く、日本に親しみを持つ入口になっています。

しかし、それだけが日本の姿だと理解されているとしたらどうでしょうか。日本は単なる「楽しい文化の国」ではありません。世界有数の経済規模を持ち、精密機械や自動車、素材産業、医療機器などで世界を支えています。同時に、民主主義と法の支配を基盤に、選挙によって政権が交代し、外交などを通じて世界貢献しようと努めている国でもあります。

にもかかわらず、その「全体像」は海外で十分に共有されているとは到底言えません。

いまの国際社会では、「どう見られているか」が国の力を左右します。企業は信頼できる国に投資します。学生は安定した国を留学先に選びます。観光客は安心できる場所を訪れます。国のイメージは抽象的な話ではなく、私たちの雇用や生活、将来の選択肢に直結しています。

もし日本が「軍事的に不安定な国」「過去と向き合っていない国」といった印象で語られれば、それは外交や経済にとって大きな損失です。そしてその印象が、事実とは異なる情報によって形作られているとしたら、なおさら深刻です。

習近平率いる中国はそうした偽情報の発信が極めて得意であり、後述するように、国家戦略として日本に関して意図的に事実と歪めた形で発信し続けています。偽情報を世界中にまき散らす作戦が功を奏していることに、習近平はほくそ笑んでいるに違いありません。

日本研究に「偏り」があるワケ

2026年、カナダのアルバータ大学中国研究所は「How China Sees the World」という報告書を発表しました。

そこでは、中国の人々がどの国を脅威と感じているか、どの国を信頼しているかが世論調査データをもとに分析されています。その中で、日本は安全保障上の懸念対象の一つとして認識されていることが示されました。

この研究所では、中国の軍事予算の増加、南シナ海政策、台湾海峡問題、一帯一路構想などを横断的に研究しています。経済、外交、安全保障をまとめて扱い、「中国という国家がいま何を考え、どこへ向かおうとしているのか」を分析しています。つまり、中国は現在進行形の戦略国家として研究されており、現地での中国シンパはどんどん増えていきます。

では、日本研究はどうでしょうか。

多くの大学では、日本研究といえばマンガ、アニメ、ゲーム文化、日本映画、ファッション、ジェンダー研究などが中心です。ボーイズラブ研究、日本の性表象、アイドル文化、町家建築、弁当文化、キャラクタービジネス分析など、きわめて細分化されたテーマも人気です。これらは決して軽視すべきものではありません。しかし、日本の防衛政策、経済安全保障戦略、財政問題、エネルギー政策、少子高齢化対策などを体系的に扱う授業は限られています。