習近平は偽情報をこう拡散している
偽情報は、決して曖昧な噂の形で広がるだけではありません。近年は、国家機関そのものが発信源となり、組織的かつ多言語で拡散されるケースが増えています。
たとえば、中国人民解放軍の公式アカウント「China Military」は、2026年版日本防衛白書の概要公表に関連して、次のような投稿をしました。そこでは、日本が子ども向けの防衛白書を作成し、小学校に配布していることを取り上げ、これを「意図的な洗脳」であるかのように描写しています。
投稿の主張を日本語に訳せば、こうなります。
「日本の防衛白書の背後にある子どもへの悪意」
「日本は近隣国の『軍事的脅威』を誇張し、国民の不安をあおっている」
「子ども向け防衛白書を小学校に配布し、“敵が外にいる”という意識を植え付けている」
「これは過去の軍国主義的プロパガンダの再来である」
「こうした動きは若い世代に敵意を植え付ける危険な試みだ」
さらに投稿は、日本の右派政治家が「外部の脅威を誇張して軍事拡張を正当化している」と断定し、「平和憲法を突破するための世論操作だ」とまで述べています。そして最後には、「架空の敵を作り出す国は、やがて自らの安全保障不安の犠牲になる」と締めくくられています。
問題は、こうした主張が単なる個人の意見ではなく、軍の公式アカウントから発信されている点にあります。しかも英語で投稿され、世界中のユーザーに届く形で拡散されます。同様の内容は、中国語、スペイン語、アラビア語など複数の言語でも流通し、日本に関する特定のイメージを国際社会に植え付けます。
ここで重要なのは、事実の一部を利用しながら、全体像を歪めている点です。日本の防衛省が子ども向けにわかりやすい資料を作成しているのは事実です。しかしそれは、防衛政策の内容を平易に説明するための広報活動であり、「敵意を植え付ける」ための教材ではありません。にもかかわらず、「軍国主義の再来」「子どもへの洗脳」といった強い言葉を使うことで、歴史的記憶と結びつけ、感情的な反応を引き出す構図が作られています。
添付された風刺画も象徴的です。軍国主義的存在のガイコツが、「Falsified History(捏造された歴史)」と書かれた注射器を学校に突き刺している。子どもたちが見上げている。これは明確に、「日本が子どもに危険な思想を注入している」という印象操作を狙った視覚的メッセージです。画像は言葉以上に強く記憶に残ります。
日本は危険という印象を固定化させる
こうした発信が問題なのは、第一に、日本の政策議論を単純化し、「再軍備=悪」という二項対立に落とし込んでしまうことです。第二に、歴史問題を利用して現在の政策を道徳的に断罪する構図を作り出すことです。そして第三に、それが世界規模で拡散されることです。
しかも、この種の発信は一度きりではありません。防衛費、憲法改正議論、台湾海峡情勢など、関連するテーマが出るたびに繰り返されます。繰り返されることで、「日本は危険な方向に進んでいる」という印象が徐々に固定化されていきます。
では、なぜより強い対抗措置が取られていないのでしょうか。なぜ日本側は、こうした投稿一つひとつに対して、迅速かつ体系的に反論し、誤解を正す努力を十分に行っていないのでしょうか。
国家機関が発信する明確な誤情報に対し、沈黙はしばしば「事実上の承認」と受け取られかねません。もちろん、すべての投稿に反応することは現実的ではありません。しかし、戦略的に繰り返される物語に対しては、戦略的な説明が必要です。クールジャパンをアピールすることは悪くはありませんが、「悪意」ある他国の拡散にはしっかり対抗しないといけません。
情報空間は、空白を放置すれば、誰かが埋めます。そしてその「誰か」は、必ずしも日本の利益や事実を尊重するとは限りません。
だからこそ、偽情報は単なるオンライン上の雑音ではなく、外交・安全保障の課題そのものなのです。

