トランプ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談の結果、両国は休戦状態となったとの指摘の一方で、「距離が縮まった」という声も少なくなかった。国際基督教大学 政治学・国際関係学教授のスティーブン・R・ナギさんは「もし、トランプと習近平が“手打ち”したら、日本国民は致命的な大打撃を食らうことになる」という――。
2026年5月15日、北京の中南海庭園を訪問後、中国の習近平国家主席と話をするドナルド・トランプ米大統領
写真=AFP/時事通信フォト
2026年5月15日、北京の中南海庭園を訪問後、中国の習近平国家主席と話をするドナルド・トランプ米大統領

トランプと習近平が“手打ち”したら

「米国第一主義」を再び掲げ、ビジネス取引(ディール)の価値観で動いているドナルド・トランプ大統領。一方、中国の習近平国家主席も、台湾統一とインド太平洋における覇権確立に向けた歴史的な布石を着々と打っている。

この両者が、もし「グランド・バーゲン(大きな取引)」を結んだらどうなるか。

米中がインド太平洋を事実上、勢力圏を分割し、米国は同盟国である日本の安全保障よりも、中国との二国間の貿易協定や技術覇権を巡る一時的な“休戦”を優先するシナリオである。

先日の首脳会談で「両国関係の距離が縮まった」との指摘もあり、「手打ち」は必ずしも荒唐無稽な話とはいえない。なぜなら、トランプには側近や専門家に相談することなく独断で行動してきた過去の実績があるからだ。これまでにも、突如として北朝鮮に足を踏み入れて金正恩氏と握手を交わしたり、在韓米軍の撤退をちらつかせたり、ウクライナのゼレンスキー大統領を公然と非難したり、(実際には解決していないにもかかわらず)自らが解決した戦争の功績でノーベル賞に値すると主張したりしてきた。

習近平との間でも、これと同じことが起こる可能性はある。短期的な貿易協定のために台湾を見捨てたり、日本の防衛力強化を「再軍備」だと批判したり、あるいは中間選挙に向けて原油価格を早急に引き下げるべくウクライナをプーチン大統領の犠牲に供したりといった事態を、「トランプならやりかねない」とみる専門家や識者は少なくない。

シーレーン(海上交通路)は中国支配下に

圧倒的な民意と保守層の熱狂的な支持を得て誕生した高市早苗政権は、今、この米中両大国の思惑が交錯する巨大な断層の上に立たされている。

高市政権が今後数カ月で直面すると筆者が考える「落とし穴(罠)」は、単なる外交上の課題ではなく、日本という国家の存亡、そして私たちの日常生活の根幹を揺るがす致命的な危機をはらんでいる。

もし米国がこの地域から一歩引くとどうなるか。ひとつには、日本経済の動脈である台湾周辺や南シナ海のシーレーン(海上交通路)が事実上、中国の軍事的・経済的支配下に置かれることになるだろう。

石油、天然ガス、鉱物資源、そして食料。これらの海域を通過する商業貿易は、資源小国である日本の文字通りの生命線である。それがわずかでも滞れば、世界屈指の経済大国は瞬く間に機能停止になる。その状況は、すでに日々の物価高に苦しむ日本の市民や、サプライチェーンの維持に奔走する企業をさらに苦境へと陥れるに違いない。

では、筆者が考える高市政権が陥る可能性のある罠とは何か。それを徹底的に解剖し、日本が取るべき生存戦略を提示したい。