第1の罠
日本が食べてはいけない「北京の餌」
中国共産党にとって、台湾は絶対に譲れない「核心的利益」でありレッドラインである。一方の日本も、「台湾有事は日本有事である」という認識を継承しており、自国の安全保障が台湾のそれと不可分であることを深く理解している。防衛費の増額と反撃能力の保有へと舵を切りつつある日本に対し、中国は極めて強い警戒感を抱いている。
高市首相は先の選挙で歴史的な圧勝を収めたが、北京は彼女の勝利を「日本の危険な右傾化と軍国主義の復活」の証拠として国際社会に宣伝し、彼女の指導者としての真価を試す口実を虎視眈々と探している。2026年の現在、中国は純粋な軍事的威圧(例えばミサイルの発射など)を直接行うのではなく、高市氏の過去の保守的な発言や、靖国神社参拝問題などのナショナリズム的な傾向を「武器化(ウェポナイズ)」する高度な認知戦(コグニティブ・ウォーフェア)を展開している。
習近平が待っている日本の「過剰反応」
習近平の最大の狙いは、高市氏に無謀な発言や行動を「させる」ことだ。例えば、尖閣諸島周辺の接続水域に、中国が武装した漁船民兵(海上民兵)の大群や海警局(CCG)の大型船を執拗に派遣する。あるいは、日本の政府機関や重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃を仕掛け、偽情報(ディープフェイク動画など)をSNSで拡散させる。これらはすべて、日本側が感情的になり、過剰反応するのを待つための罠である。
もし高市氏がこの「北京の餌」に食いつき、激しいレトリックで応酬したり、自衛隊の運用において性急な行動に出たりすれば、中国は直ちに「日本こそが地域の平和を乱す修正主義者であり、挑発者である」というナラティブを国際社会に向けて完成させることができる。
日本の防衛力強化を「再軍備」と非難し、台湾への関与を「かつての帝国主義による再植民地化」と決めつける。それが事実かどうか、世界が信じるかどうかは関係ない。目的はあくまで、「日本は過去の侵略を謝罪していない」と教え込まれている中国国内に向けたアピールだからだ。
加えて、日本が外交的に孤立し、米国や欧州からの支持を失えば、台湾の現状維持を求める最強の擁護者を無力化できる。高市氏に今求められているのは、支持層を喜ばせる熱狂的なナショナリズムの誇示ではない。領土・領海を譲歩しない断固たる姿勢を示しつつも、相手に先制攻撃や非難の口実を与えない、氷のように冷徹な「抑止力」の行使である。

