中国では人型ロボットが30分に1台のペースで量産されている。その正体はロボット産業ではなく、ドローンとEVが20年かけて育てた量産モーター産業の最終形態だ。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「中国の脅威は本物だが、日本には工場自動化で50年磨いた精度・信頼性・現場改善文化がある。この資産を“学習し続ける組織”に接続し直せれば、日本の製造業は再び世界の主役になれる」という――。(第2回/全5回)

「30分に1台、自動化率92%」の衝撃

2026年の春節(2月後半)、中国のテレビで放映されたヒューマノイドの映像が大きな話題となった。複数のヒューマノイドが舞台上で整然と隊列を組み、人間の演者と同期しながら、テンポを外すことなく、転倒もなく、滑らかに動き続けていた。その光景は、単なるデモンストレーションの成功というよりも、「身体がすでに制御されている」という事実を視覚的に突きつけるものだった。多くの人はその映像を「エンターテインメント」として受け止めたかもしれない。しかし、本当に見るべきは視覚的な完成度ではなく、その背後にある技術構造である。

2026年2月16日、中国・北京で開催された中国メディアグループ(CMG)の2026年春節ガラで行われたロボット武術パフォーマンスの様子
写真提供=CCTV+/VCG/アフロ
2026年2月16日、中国・北京で開催された中国メディアグループ(CMG)の2026年春節ガラで行われたロボット武術パフォーマンスの様子

あの春節演武から、わずか3カ月がたった。

その間に何が起きたか。世間が春節演武の映像を「派手なデモンストレーション」として消費していた間に、中国のヒューマノイド産業は、決定的な段階に入っていた。

筆者は20日、『フィジカルAIの衝撃 「身体をもった人工知能」は2030年の世界をどう変えるか』(朝日新聞出版)を上梓した。そこで紹介している一例を挙げよう。

2026年3月29日、中国・広東省仏山市で、国内初となる年産1万台超のヒューマノイド量産ラインが稼働を開始した。東方精工と、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)であるLeju Roboticsが共同で整備したこのラインは、ヒューマノイドを30分に1台のペースで組み上げる。重要工程の自動化率は92%、組立精度は0.02ミリメートル以内。24の精密組立工程、77の検査工程、41の実使用試験工程が組み込まれている。仏山市はもともと産業用ロボット、減速機、サーボモーターのサプライチェーンが充実した地域だ。その上に、回転寿司のレーンを流れる寿司のように、ヒューマノイドが次々と組み上がっていく。

出荷シェア78%を中国が独占した

同じ3月、中国の智元機器人(AgiBot)がヒューマノイド累計1万台生産を達成したと発表した。AgiBotが5000台から1万台に到達するのに要した期間は、わずか3カ月。それ以前の生産フェーズと比べて、生産速度は4倍以上に加速している。

英国の調査会社オムディアが2026年4月に発表したデータによれば、2025年の世界ヒューマノイド出荷台数は1万3317台。世界上位3社をすべて中国企業が占め、合計で世界全体の約78%を支配した。1位AgiBot5168台、2位宇樹科技(ユニツリー)4200台、3位優必選(UBTech)1000台。米国勢はテスラ、Figure AI、Agility Roboticsがそれぞれ約150台にとどまった。

田中道昭『フィジカルAIの衝撃』(朝日新聞出版)
田中道昭『フィジカルAIの衝撃』(朝日新聞出版)

そして4月9日、台湾の調査会社トレンドフォースは「2026年の中国ヒューマノイド生産量は前年比94%増。UnitreeとAgiBotの2社で国内出荷の約80%を占める」と予測を発表した。

同じ4月9日、決定的な動きがあった。Unitreeが上海証券取引所のSTAR市場(中国版ナスダックに相当する科創板)にIPO(新規株式公開)申請を受理されたのである。同社の目論見書によれば、2025年にヒューマノイドの売上が四足歩行ロボットの売上を初めて上回り、全体の51%超を占めた。ヒューマノイドは、もはや四足歩行ロボットの「次世代候補」ではない。中国ロボット産業の本流に押し上げられている。