それでも日本のスピードは遅い
同時に、冷徹に直視すべき事実もある。中国がすでに月間数百台ペースで量産している現実、UnitreeがIPO申請まで進めている現実、ドイツのメルツ首相がフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツの幹部を率いてUnitreeの杭州拠点を訪問し、産業外交の舞台で中国製ヒューマノイドが既に動いている現実――これらと比較すると、日本側のスピード感は明らかに遅れている。
書籍が警鐘を鳴らすように、もし日本が中国製ヒューマノイドを大量に導入し、日本の現場で実証を行い、そのデータが国外のクラウドに吸い上げられる構造を許してしまえば、日本の現場の暗黙知は他国のロボット人工知能の養分になる。日本の工場、日本の介護施設、日本の病院が、中国のロボット知能を鍛える実験場になる。
かつてスマートフォン時代に「良い部品は日本、利益とルールは海外」という敗北パターンを経験したように、ヒューマノイドの時代に同じ轍を踏むリスクが、いまそこにある。
現場の暗黙知を誰に学習させるのか
中国製ヒューマノイドは、世間で言われるような単純な脅威ではない。それは、ドローンとEVを経由して中国が20年かけて蓄積した量産モーター産業の総合力が、人型という最終形態に結実した姿である。日本がドローン・EVで後れを取ったツケが、いまヒューマノイドで表面化している。
しかし、日本にもまだ資産がある。FAで50年磨いた精度・信頼性・現場改善文化、減速機・サーボモーター・センサーで世界の頂点に立つ部品技術、そして第1回で論じた「学習し続ける現場」の文化――これらは中国がまだ持っていない資産である。
問われているのは、これらの資産をどう接続し直すか、である。
ヒューマノイドを「作れるか」が問われているのではない。書籍が示すように、本当に問われているのは、日本の現場データ、日本の技能、日本の安全設計思想を、自らのロボットの脳にどう組み込むのか、である。
2026年は、その選択の年である。中国製ヒューマノイドが日本の現場に到来する未来は、もはや遠い未来ではない。30分に1台のペースで組み上がる工場が、すでに広東省で稼働している。
次回は、フィジカルAI時代の覇者として世界の注目を集めるエヌビディアの正体を解明する。ジェンスン・フアン率いるこの企業は、なぜ「フィジカルAIの世界をつくる会社」と呼ばれるのか――その構造を読み解いていく。(第3回につづく)


