「精密前提」と「量産前提」の決定的な断層

ここで日本の経営者にとって、極めて深刻な事実を直視しなければならない。

日本がドローンとEVで中国に大きく後れを取ったツケが、いまヒューマノイドという最終形態で表面化している。

日本のドローン産業は、規制の遅れと国内需要の薄さで世界から大きく後れた。日本のEV戦略は、ハイブリッド路線の成功体験が逆に純EV転換を遅らせた。これらは個別産業の遅れではなく、「量産モーター産業全体での遅れ」だった。そしてその遅れが、いまヒューマノイドという最終形態で目に見える形になっている。

世間では「ヒューマノイドで日本がどう戦うか」が議論されているが、問いの設定そのものが浅い。ヒューマノイドは、ドローン・EVで磨かれた量産モーター技術が結実した産業の最終形態にすぎない。ヒューマノイド単体で戦略を考えても、上流の構造で既に勝負がついている可能性がある。

働く自律型AI対応ヒューマノイドロボット
写真=iStock.com/SweetBunFactory
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書籍『フィジカルAIの衝撃』が示す決定的な命題――「フィジカルAIとは『知能より先に身体を制御した者が勝つゲーム』である」――の意味は、ここにある。中国はまず身体の工学を大量に実装し、そのうえで人工知能を載せている。そして、その「身体」を作る技術基盤は、ロボット産業の中にではなく、ドローンとEVという量産モーター産業の中で育てられてきたのである。

知能より先に身体を制した者が勝つ

しかし――日本の製造業がここで諦める必要は、ない。ここからが本稿の本論である。

日本の製造業が世界最高水準に達したのは、FA(Factory Automation、工場自動化)の領域である。発想は明快だった。「環境をロボットに合わせる」。工場のレイアウトを整備し、部品の位置を固定し、ロボットが誤作動しない条件を整える。この発想が、ファナック、安川電機、三菱電機を世界の頂点に押し上げた。精度、再現性、耐久性――FAの50年が積み上げた資産は、世界に類を見ない。

ただし、その強みは同時に制約でもある。定型環境を前提とした設計思想は、非定型な環境には適応しにくい。

一方、中国が目指すのはPA(Physical Automation、物理的自動化)である。発想は真逆だ。「ロボットが人間環境に適応する」。非定型の空間、予測不能な動き、整備されていない床面、そうした条件の中で、身体が自律的に振る舞いを調整する。FAが「設備中心の自動化」なら、PAは「身体中心の自動化」である。

ここで誤解してはならない決定的な点がある。日本がFAで磨いた精度と信頼性は、PA時代においても不可欠な要素である。減速機(ロボットの関節部で回転を減速して大きなトルクを生み出す精密部品)で世界シェアを握るハーモニック・ドライブ・システムズやナブテスコ、サーボモーター(精密に位置と速度を制御するモーター)で世界最高水準を維持する安川電機、認識センサー(機械の目)を握るキーエンスやソニー――これらの日本企業の技術は、世界中のヒューマノイドが動くために不可欠な要素である。テスラOptimusも、Figure 03も、実は内部に日本製の精密部品を多数搭載している。

問題は、その資産をPAの文脈に接続し直す設計思想の転換ができるかどうか、である。