「一万台が同じ品質で動く」重要な意味

価格水準も衝撃的だ。Unitreeが2025年末に発表した最新モデル「R1」は、わずか5900ドル(約88万円)から。テスラOptimus Gen3の予想価格(2~3万ドル)の約4分の1、Boston Dynamics Atlasの推定価格(14万ドル)の約4%である。

本書でも指摘しているが、1台のロボットが美しく動くことと、1万台のロボットが同じ品質で動くことは、まったく異なる技術的課題である。前者は研究の成果であり、後者は産業の成熟を意味する。中国は、明らかに後者の段階に入った。

問題は、なぜ中国はここまで一気にこの段階に到達できたのか、である。答えは、世間が探している場所――ロボット産業の内部――には、ない。中国のヒューマノイドは、ロボット産業の延長として登場したのではない。

その出自は、ドローンと電気自動車(EV)である。

これが、本稿が日本の経営者に最も伝えたい構造命名だ。世間に流通しているヒューマノイド議論のほぼすべてが、この一点を見落としている。

ドローンの世界では、2006年に深圳で創業されたDJI(大疆創新)が、世界の民生用ドローン市場で約7割のシェアを握ってきた。同社が20年近くにわたって積み上げてきた技術――軽量化、高速モーター制御、姿勢安定アルゴリズム、量産プロセスのノウハウ――は、いまヒューマノイドに直接転用されている。空中で姿勢を保ち続けるドローンと、地上で二足歩行を続けるヒューマノイドは、技術的に近い親戚なのである。

日本のロボットとは設計哲学がぜんぜん違う

EVの世界では、深圳のBYDが2025年に新車販売世界1位に躍り出た。寧徳時代(CATL)は世界最大の車載電池メーカーとなった。これら中国EV企業が積み上げてきた電池の量産技術、モーターの量産技術、車両制御ソフトウェアの蓄積も、すべてヒューマノイドの「身体」に転用可能である。

BYDの自動車
写真=iStock.com/LewisTsePuiLung
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つまり、中国製ヒューマノイドは「ロボッティクスの延長」ではなく、「モーター産業の進化」である。

ここに決定的な意味がある。ドローンもEVも、もともと「量産前提」の産業だからだ。設計思想の根幹に、「数千台、数万台を低コストで作る」発想が組み込まれている。「軽く、安く、大量に、しかし精密に」という設計哲学が、産業のDNAとして既に存在する。

その設計哲学がそのままロボットに転用された結果、いまユニツリーH1の量産が進み、AgiBotが累計1万台に到達し、Unitree R1が5900ドルという衝撃価格を実現している。

一方、日本のロボット産業はどう作られてきたか。日本のロボット産業の主戦場は、長らく産業用ロボットだった。ファナック、安川電機、川崎重工業、三菱電機といった企業群が、年間出荷数千~数万台規模、1台数百万円から数千万円という価格帯で、世界最高水準の精度と耐久性を磨いてきた。素晴らしい産業である。しかし、その設計思想は「量産前提」というよりも「精密前提」であった。出荷台数より、1台1台の精度と寿命を最優先する文化である。