プロ野球・読売巨人軍は5月26日、阿部慎之助監督の辞任を発表した。前日に起きた家族間トラブルは、球界を超えて社会的な議論を呼ぶ出来事となった。その理由の1つは、長女が助けを求めた最初の相手が「ChatGPT」であることだ。宗教学者の島田裕巳さんは「この事件は極めて重要な意味を持っている。これまでの常識をくつがえす革命的な出来事かもしれない」という――。
現役時代の読売巨人軍・阿部慎之助前監督
現役時代の読売巨人軍・阿部慎之助前監督(2012年)(写真=Ship1231/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

阿部元監督の事件が革命的なワケ

巷では、巨人軍の阿部慎之助元監督の辞任問題がもっぱらの話題である。

先日も、居酒屋でその話題になったとき、隣に座った見ず知らずの客が話に入ってきて、それでその場が盛り上がった。そうした光景が、今や至る所でくり広げられていることであろう。

だが、今回の出来事は、極めて重要な意味を持っている。これは極端な言い方かもしれないが、これまでの常識をくつがえす革命的な出来事かもしれないのだ。

何が革命的なことかと言えば、阿部元監督の娘さんが緊急事態に直面したとき、生身の人間に相談するのではなく、生成AIの「ChatGPT」に相談したことである。

人類の歴史がはじまってから、人間は何か問題が起こったとき、仲間に相談をもちかけてきた。人間が相談役としてもっとも適任だったのだ。占いなどの方法も用いられてきたが、占いをするのもあくまで人間である。

生成AIは、その急速な進化によって、人間の仕事を奪うとされ、実際に、そういう事態も起こっている。だが、相談役という決定的に重要な役割も今や奪われようとしているのだ。

今回の出来事は、それを明るみに出した。その点で革命的な出来事であり、今後の変化を予想させるものなのである。

AIに打ち負かされた名人の憔悴

すでに私たちは、自分たちがAIに負ける光景を目撃している。

それは2017年のことである。AIが組み込まれた将棋ソフト「Ponanza」が、当時の将棋の名人、佐藤天彦氏を完膚無きまでに打ち破った。AIの手はロボットアームによって盤上に再現されたが、その前でうなだれている佐藤名人の姿はひどく印象的だった。

それ以来、トップ棋士と最強将棋ソフトが公式戦で戦う機会はなくなった。将棋ソフトのほうは、ソフト同士で対戦をくり返し、それ以降も進化を続けている。

阿部元監督の娘さんには、人間に相談を持ちかけるという選択肢もあった。

たとえば、友だちに対してである。なかには、家庭内暴力を受けた経験を持つ友だちがいるかもしれない。そうした友だちに相談してみるのだ。すると、AIと同じように、児童相談所なら匿名で相談できると助言してくれるかもしれない。

しかし、そこには難しい問題がある。それがとてつもなく重大なことなのだ。