高市首相の「台湾有事は日本有事」発言に、周辺国はどう反応したのか。『ベトナムにはなぜパンダがいないのか』を書いた川島博之さんは「アメリカや韓国が静観していたのと同じく、ベトナム政府も表向きダンマリを決め込んだ。しかし、実は密かに他国とはまったく異なる行動をとっていた」という――。(第1回)

※本稿は、川島博之『ベトナムにはなぜパンダがいないのか』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

記者会見を行う高市内閣総理大臣
記者会見を行う高市内閣総理大臣(画像=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

反中ムードが生んだ自民の圧勝

高市首相は2025年10月4日、石破茂前総裁に代わって自民党総裁に就任した。だが、長年、自民党と連立政権を組んでいた公明党が、突然、連立を離脱。その後、日本維新の会と連立を樹立し、国会で首相に指名された。そのため、彼女はそう遠くない時期に衆議院を解散して国民の信を問う必要があった。

高市首相は鋭敏であった。2026年1月に突如、衆議院を解散した。彼女は世論が反中に染まっていることを見抜いていた。2月8日に投票が行われたが、結果は自民党の圧勝に終わった。

この選挙の直前に、立憲民主党と公明党の衆議院議員が一緒になって中道改革連合を作った。両党が一緒になるのではなく、衆議院議員だけが一緒になるという中途半端なもので、選挙目当ての野合であることは明らかであった。

立憲民主党(当時は民主党)は安倍内閣が取り組んだ安保法制に猛反対し、市民団体による反対デモにも何人もの所属議員が参加し、声を上げていた。それにもかかわらず、安倍政権で与党だった公明党の言い分をあっさりと容認した。その姿勢に国民が呆れたことも自民党の圧勝の一因になった。

日本は中国に対して強硬な姿勢をとる必要がある。多くの国民がそう感じていた。そもそ

も2025年10月に高市氏が自民党総裁に選ばれたのは、2024年11月にトランプ大統領が再選されたことも要因の一つであろう。

トランプ再選で一変した対中路線

高市氏は、2024年9月に行われた総裁選挙では石破氏に敗れている。これは岸田文雄首相の任期満了に伴うものであったが、その時点では米大統領選挙において、共和党のトランプ氏が勝つのか民主党のカマラ・ハリス氏が勝つのか判然としなかった。夏頃まではハリス氏優勢との報道も多かった。

このような状況の中で、多くの自民党議員は右派的で反中の高市氏に首相を任せることはできないと考えた。それが2024年の総裁選で、高市氏が第1回投票で1位になりながら、決選投票で石破氏に逆転を許した理由の一つである。

しかし、トランプ大統領が誕生すると、情勢は大きく変化した。米国内においては、トランプ氏とハリス氏の政策の違いは移民問題が中心であったが、対外政策では中国に対するスタンスに違いがあった。選挙中、トランプ氏は中国に対して強硬な姿勢で臨むことを繰り返し主張した。一方のハリス氏は中国に融和的であった。

トランプ氏が勝利したことは日本の政治情勢を大きく変えた。米国が中国に強硬な態度に出るのなら、日本も中国に強硬な態度に出るべきだ、そんな雰囲気になった。そういう中で、中国人に対するビザ発給条件を一部緩和した岩屋外相は、ネットなどにおいて強く非難された。