家は奪い合うように見えて実際に奪い合うのは現金
遺言があっても争いになる典型が、遺留分を巡る不満です。遺留分は遺言によっても奪えません。妻と子2人が相続人なら、子1人あたりの遺留分は遺産全体の8分の1です。遺言に「財産のすべてを長男に」とあっても、ほかの子は自分の取り分が8分の1に足りなければ、不足分を請求できます。しかも、遺留分の請求は金銭での支払いを求める「遺留分侵害額請求権」です。争いの焦点は「誰が何を相続するか」ではなく「不足分をいくら払うか」に移るのです。
長男が家屋や家業を継ぐことに異議が出ることは少ないものの、遺留分を巡って「お兄さんは実家と商売を継ぐのに、自分の取り分が少なすぎる」といった訴えがなされるケースはあります。長男に十分な現金があればよいのですが、手元になければ、どう用意するかが次の問題になります。
そこで使われるのが、土地建物を相続した人が自分の現金で差額を支払う「代償分割」という方法です。ただ、実家や家業を継ぐような家庭でも、兄弟姉妹に配れるほどの現金を手元に持っているケースは、多くありません。
現金が足りなければ、財産のどれかを売って用意するしかありません。皮肉なことに、継ぐはずだった実家を、代償金を用意するために手放す結果になることもあります。あるいは初めから、相続した財産を売却して代金を分ける「換価分割」を選ぶ方もいます。売らずに済ませようと、家を継ぐ子が金融機関から借り入れて支払うケースもありますが、返済の負担を長く背負うことになります。
「相続と離婚のときに、最も不動産が動く」のは事実です。売る気のなかった家や土地が、財産を分ける必要に駆られて、まとまって市場に出てくるからです。家を奪い合っているように見えて、実際に奪い合っているのは、家を分けるための現金なのです。
代償金を用意できない場合には「いっそ全員の共有名義にして丸く収めよう」と考える方がいます。誰か一人が多く取るわけではないので、当座は揉めずに済みますが、共有もまた問題の先送りにすぎません。共有のまま次の相続が起きると、亡くなった共有者の持ち分が子たちへ受け継がれます。相続を重ねるたびに共有者は増え、会ったこともない遠い親戚同士が同じ不動産を共有する事態にもなりかねません。売却など重要な処分には全員の同意が必要で、話がまとまらなくなれば、不動産が塩漬けになってしまいます。
共有者の一人が持ち分を手放したくても買い手はつきにくく、しびれを切らせば「共有物分割請求訴訟」という形で裁判所に分割を求めることになります。丸く収めたはずの共有による解決が、次の世代を法廷に立たせることになるのです。
家族構成によっても相続の様相は大きく変わります。子のいない夫婦で夫の親もすでに亡くなっている場合、夫が亡くなると相続人は妻と夫の兄弟姉妹になります。話し合いが成立しにくいパターンになりがちですが、兄弟姉妹には遺留分がありません。「全財産を妻に相続させる」との遺言を残せば、夫の兄弟姉妹は遺留分を請求できず、妻がすべてを受け取れます。
再婚した家庭では、相続人の範囲に注意が必要です。前の配偶者との間に子がいれば、たとえ長年会っていなくても、前婚でもうけた子は相続人です。今の家族だけで話を進めるとあとから前婚でもうけた子が現れ、遺産分割をやり直す事態にもなりかねません。誰が相続人になるかは、現在の家族関係だけでは判断できないのです。
介護をした子にも、落とし穴があります。親の世話をし、通帳を預かって支払いを担ってきた子は、ほかの相続人から「親の金を使い込んだのではないか」と疑われることがあります。実際には親の生活費や介護・医療として使ったものでも、記録が残っていなければ証明するのは困難です。領収書・レシートや家計簿など、出金の記録を残しておきましょう。
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