なぜ人々はこれほどまでに嫌われ者に惹きつけられるのか

エスタブリッシュメントや正統派の正義の味方を、もはや信じなくなった世界。ダークヒーロー全盛のこの時代において、本書のサブタイトルにある「トリックスター」という言葉は「清濁併せ呑み正邪の壁を引っかき回す人」とでも言おうか、昨今しばしば肯定的な、ときに礼賛的な空気さえ纏っている。だがこの言葉について、石戸諭は「広辞苑を開いてみると、最初に記載されている定義は『詐欺師。ぺてん師』である」として、本作中で念を押す。

毎日新聞大阪社会部記者だった石戸がウェブメディアに移り、その名を世間に知らしめたのは福島第一原発を扱った力強いルポルタージュだった。その後独立して本格的なノンフィクション作家となった石戸が40歳を迎え、これまで各所で書いてきた「ややこしい社会現象の中心にいる、ややこしい人たち」のルポを大幅に加筆して一冊にまとめたものが、この『「嫌われ者」の正体』だ。皆が彼らを知っている。そして何かしら意見を言いたくなる。彼らは一体何者なのか? 国内外で畳み掛けるようにして選挙が続き民主主義なるものの劣化を実感させられた2024年、広義のポピュリズムを操って注目を浴び、何らかの利益を得る人物たちを見事に描き取り、彼らの言動の背景と理由を分析、説得力たっぷりに解説していく過程は見事である。

『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』石戸 諭 著 新潮新書/本体価格960円+税
『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』石戸 諭 著 新潮新書/本体価格960円+税

石戸が肉薄する「嫌われ者」とは、玉川徹や西野亮廣、ガーシー、吉村洋文そして山本太郎。ここ10年を代表する、メディアや選挙の台風の目となった男たちだ。彼らの周辺で同様に世間を騒がせるあれこれの人物や政治家の名前もてんこ盛りに出てくる。ニュースのヘッドラインに名前が出ては支持も批判も大量に湧く彼らの共通点は、定義は実にさまざまだが「既得権益」への対立姿勢、やがてそれ自体が目的化していく部分もあり、世間を引っかき回し、コアな支持者を惹きつけ、一方で強火のアンチも生む挑戦的な言動だ。

ここで石戸は、オランダの政治学者カス・ミュデらによるポピュリズムの定義を引く。「社会が究極的に『汚れなき人民』対『腐敗したエリート』という敵対する二つの同質的な陣営に分かれると考え、政治とは人民の一般意志(ヴォロンテ・ジェネラール)の表現であるべきだと論じる、中心の薄弱なイデオロギー」(『ポピュリズム:デモクラシーの友と敵』)。対立構造を作り上げて、社会の単純化から導いた幼稚な極論を操るのがポピュリストということになる。「見えてくるのは社会を変えた夢の技術としてのインターネットの終焉と幼稚化する日本社会の姿である」(石戸)。24年のポピュリストを論じるならば絶対に外せない石丸伸二を、エピローグで俎上に載せてくれた石戸の選択に拍手。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト

1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』(ともに小社刊)ほか。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年1月31日号)の一部を再編集したものです。

(撮影=増田岳二 イラストレーション=保光敏将)

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