台湾海峡有事が起こるとしたら、それはどのように始まるのか。防衛研究所上席研究官の高橋杉雄さんは「台湾の側から中国大陸に進攻する可能性は現実的には存在しない一方で、中国は台湾統一のための武力行使を公式に放棄していない。この非対称性こそが台湾海峡危機の基本構造である」という――。
※本稿は高橋杉雄『世界戦争論 次の大戦争をどう防ぐか』(SB新書)の一部を再編集したものです。
過去の戦争と比べどこが違うか
いま、世界中の安全保障専門家や政治家が台湾海峡有事を恐れている。ただ、台湾海峡有事というシナリオを考えてみると、過去の戦争と比べてみても非常にユニークな点がいくつかある。
第1は、中国と台湾の関係において政治的な立場が非対称であることである。台湾海峡問題は、第二次世界大戦前から中国国内で展開していた国民党と共産党の内戦が共産党の勝利に終わり、国民党が台湾に逃れたことから始まっている。そして現在は、多くの国が中国の北京に首都を置く中華人民共和国と正式な外交関係を結んでいる。これらの国は台湾に逃れた国民党の流れをくむ政体である台湾とは正式な外交関係を結んでいない。
一方で台湾の政府は自らの領域における政治的な自律性を維持しており、米国を含む世界の国々と経済関係のみならず、事実上非公式な外交関係を維持している。だが台湾は国連の議席も持たず、正式な外交関係を維持している国も10カ国程度に過ぎない。
第2は、経済力においても大きな非対称性があることである。台湾は先端的な半導体の製造能力をほぼ独占的に保有しており、世界経済で不可欠な役割を担っている。しかし中国はいまや世界第2の経済大国であり、GDPで比べると台湾の20倍以上の経済力を持っている。
経済力を国力と見なすならば、中国が既に圧倒的に大きくなっており、経済力のある種の関数といえる軍事力においても当然のことながら大きな差がある。軍事力でみれば、台湾は米国が支援した場合にのみ中国と対抗できる可能性があるのが現実である。

