軍事侵攻のルートは一方向しかない
第3は、戦略目標にも非対称性があることである。中国は台湾を統一することを国家の大きな目標としている。一方で、台湾側も中華民国憲法体制上は中国大陸を完全な外国として切り離しているわけではないが、台湾が主導して中国大陸を統一することは、現在では現実的な政治目標とは考えられていない。むしろ台湾の現在の政治的自立、民主的体制、事実上の主権を維持することが、台湾側の中心的な戦略目標となっているといっていい。
つまり、台湾の側から中国大陸に進攻する可能性は現実的には存在しない一方で、中国は台湾統一のための武力行使を公式に放棄していない。この非対称性こそが台湾海峡危機の基本構造である。
特に過去の戦争と比べた上での大きな違いは、軍事侵攻のルートが中国→台湾の1方向だということである。この点は特に安全保障のジレンマを考える上で重要なので、後でまた触れる。
「3つのイメージ」から考える
前提を整理した上で、『世界戦争論 次の大戦争をどう防ぐか』第3章で紹介した、戦争が始まる原因を3つのイメージで捉える考え方をとってみよう。これは戦争が起こる原因を「個人」「国家」「国際システム」の3つのレベルに分ける考え方である。
ここでは、その3つのイメージを当てはめて台湾海峡有事について考えてみる。前節で述べたとおり、中国と台湾の間には戦略目標の非対称性があり、台湾の側から中国に進攻する可能性は考えなくて良い。そのためここで考えるのは、中国が台湾海峡有事を始めるとすれば、それぞれのイメージではどう説明され得るだろうかと言うことになる。
まず第1イメージは「個人」である。特にここで焦点が当てられるのは、その国の指導者の個人的な野心や攻撃的衝動である。繰り返すが、台湾の側から中国に進攻する可能性は考えなくて良い。従って、第1イメージに基づくならば、台湾海峡有事は中国の指導者である習近平国家主席の個人的な野心や功名心が原因となって起こり得ると考えられることになる。

