ロシアとウクライナの戦争で多数のドローンが飛び交うなど、戦術は常に変わっていく。防衛研究所上席研究員の高橋杉雄さんは「4年半前、プーチンは情報分析をし、『今なら勝てる』と思ってウクライナへ侵攻したが、それは誤算だった」という――。

※本稿は高橋杉雄『世界戦争論 次の大戦争をどう防ぐか』(SB新書)の一部を再編集したものです。

プーチン大統領
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ロシアの特殊軍事作戦参加者の教師や指導者への国家勲章授与式で演説を行ったプーチン大統領、モスクワのクリムリン、2026年10月5日

戦争が続発、日本の環境は世界一厳しい

2026年の前半には、ウクライナに加えて中東でも戦争が起こった。アジアでも緊張は決して和らいでいない。

戦争こそ起こっていないものの、日本は世界で最も厳しい安全保障環境におかれていると言っても過言ではない。中国は国防費を急速に増加させ、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化し、台湾海峡や台湾の東側にも海軍力・空軍力を頻繁に展開させ、また尖閣諸島周辺を含む東シナ海や太平洋での活動を活発化させている。北朝鮮は核・ミサイル能力を継続的に向上させ、さらにロシアとの軍事協力を通じて技術・実戦経験を獲得しているとみられる。ロシアはウクライナ侵略を続ける一方、極東でも中国との共同訓練・演習などを通じて軍事的プレゼンスを維持している。

ウクライナ侵攻への動きは2021年秋から

2021年の秋、すなわちゼレンスキー大統領の2021年9月の訪米後にロシアはウクライナに対する圧力を強めていく。2021年の秋から冬にかけてロシアが大規模な地上戦力をウクライナ周辺に展開させ、ウクライナ情勢が「危機」として認識され、2022年2月24日の開戦を迎えることとなる。

プーチン大統領はなぜ、このタイミングでウクライナへの侵攻を決断したのか。

これは現時点でも、まだ推測の域を出ない。しかしひとつの可能性は「このタイミングで戦えば勝てる」と認識したことである。ロシアの情報部門は、ウクライナに内通者が浸透していることもあり、ロシア軍が侵攻すればウクライナは短期間で崩壊するという報告を上げていた気配がある。だとすれば、プーチン大統領が「ロシア軍が侵攻すればウクライナは短期間で自壊し、2014年のクリミア併合に近い形での電撃的な勝利が可能」と考えていたとしても不思議なことではない。

ウクライナのゼレンスキー大統領
ロシアのウクライナ侵攻後、虐殺が行われたブチャを視察するウクライナのゼレンスキー大統領、2022年4月4日(写真=ウクライナ大統領公式ウェブサイト/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

プーチンは簡単に勝てると思っていた

事実、秘密工作の成果もあり、メリトポリなど、大きな戦闘もなくロシア軍が迅速に占領したいくつかの都市もある。プーチン大統領は、同じような状況がウクライナ全土で発生すると考えていた可能性が高いと思われる。逆に、現実のように「ウクライナが徹底抗戦し、数年を経ても消耗戦が続いている」と認識していたら、2022年2月に開戦の決断を下すことはなかったであろう。

そうだとすると、この戦争の始まった最大の理由は、米国に対して独立した極として「バランシング」を目指し、旧ソ連的な勢力圏を再構築したことと加え、2022年2月のタイミングで「勝てると思ったから」ということなのだろう。