資産家だけが揉めるは大間違いである理由
「仲がいいほど揉める」と言われることがありますが、本当でしょうか。私の実感では、やはり仲のいい家族のほうが相続の話し合いも円滑に進むケースが多いです。ただし、話し合いがこじれて泥沼にはまるのも、仲がよかった家族かもしれません。
弁護士のところに持ち込まれる案件は、すでに揉めているケースばかりですから、世間一般の統計からは、外れた状況であることも少なくありません。ですが、こじれた案件ばかりを長年見てきたからこそ、わかることがあります。揉める家族には、財産の多寡や家庭の事情を超えて、共通する「一定のパターン」があるのです。その型を知っておくことは、円満に相続を終えるために役立つはずです。
「仲のいい家族」の意味するところが、お互いに尊重し、歩み寄れる間柄であるとすれば、相続に関する話し合いも、そこまでこじれないでしょう。
ですが、「昔は仲がよかった」という意味合いであれば、事情は変わってきます。特に兄弟姉妹の場合、同じ屋根の下に住んでいた子ども時代と、それぞれが独立して家庭を持った今とでは、状況が変わっています。帰省時に良好な関係を保てていたのは、その時点ではたまたま、揉める理由がなかっただけかもしれません。特に相続となると、生々しい利害が絡んできます。「今になってそんなことを言うの?」といった裏切られた感覚が、亀裂を生むのです。
さらに「仲がいい」と思っていた家族は「ウチに限って紛争なんて起きないから」と油断して、相続の準備をしていないことが多いのです。「仲がいいほど揉める」が現実になるとしたら、多くは準備不足が原因です。「仲がいい」は相続の準備をしなくていい理由にはなりません。
逆に家族間の人間関係がギクシャクしていて「ウチは絶対に揉めそうだ」という家庭は、遺言作成などの準備がしてあります。場合によってはそれぞれに代理人(弁護士)が立つなどするので、相続も淡々と進む印象です。
故人の遺志を示す「遺言」がない場合、相続が始まると、相続人の間で「遺産分割協議」に入ります。生前に本人が口頭で「家は長男に継がせたい」と言っていたとしても、証拠がなければ協議の拠りどころにはならないのです。何を「公平」と見るかは人によって違うものです。
遺産分割協議では、生前は見えなかった主張が入り込みます。予想以上に権利を主張する人が現れ、初めて対立が表面化することも珍しくありません。本人が急に欲深くなったわけではありません。相続で取得する財産は「思いがけず手に入る財産」です。多く受け取りたいと思うのは自然な感情でしょう。利害が対立するのは、当然なのです。
兄弟姉妹が相続人として向き合うと、そこに各自の家庭の事情や損得が加わります。家族としての顔と、相続人としての顔は、同じではありません。
「ウチは本家なのだから、分家より手厚くなるのは当然だ」「おまえのところは子どもがいないのだから譲れ」「兄さんは大学まで行かせてもらったじゃないか」など、言い分は尽きません。穏やかな人間性や物静かな性分だと思っていた兄弟姉妹でも、それぞれ独立して家庭を築き、配偶者や子ができれば、自分の権利を最大限主張する対立当事者になりうるのです。
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