日本製鉄がUSスチールを買収してから1年が経った。当初トランプ大統領からも反対されていた買収は成功したのか。在米ジャーナリストの岩田太郎さんは「日本製鉄は当初の約束通り積極的な設備投資を行い、USスチールの利益上昇に貢献した。給料も上がった労働者たちからは感謝の声が上がり、日米関係にも良い影響を与えている」という――。

USスチール買収1年で早くも成果

日本製鉄が2025年6月に約2兆円という巨額を投じて、ジリ貧状態であった米国の鉄鋼大手USスチールを買収して1年以上が経過した。買収時の約束であった大規模な設備投資や従業員の訓練による生産性向上が軌道に乗りつつあり、米国側の受け止めも好意的だ。

足元の決算では、USスチールの収益が日本製鉄全体の利益を支える存在となり、通期業績予想の上方修正の「立役者」になるなど、買収が大方の予想よりも早く成果を上げ始めたように見える。

日本製鉄の橋本英二会長の決断が日米の政治と経済のつながりの強化、および安全保障連携において、すでに目に見える成果を挙げていることは特筆に値する。

日本製鉄は米国において、まず政治面で成功することで、業績面でも成功する道を歩んでいるように見えるのだ。本稿では、進出先の地元住民や米政界からの高評価と好意が、いかに日本製鉄本体の企業改革を後押ししているかを読み解く。

救済先に助けられる「救世主」の日本製鉄

日本製鉄の2026年度第1四半期(4〜6月)の実力ベース事業利益は、国内が471億円に対して海外が613億円と、同社が主に海外で稼ぐ構造へと変化していることを示唆するものとなった。

日本製鉄のUSスチール買収1周年を祝う式典に参列するエドガー・トムソン製鉄所の労働者たち
日本製鉄のUSスチール買収1周年を祝う式典に参列するエドガー・トムソン製鉄所の労働者たち。彼らの働きが日本製鉄の好業績に大きな貢献をした。(Photo by Stephanie Strasburg/Pittsburgh’s Public Source)

目玉は、海外の事業利益の半分以上である322億円をUSスチールが叩き出したことだ。通期見通しにおいても、国内利益3800億円に対して海外は3200億円、その内USスチールが1800億円を占めると日本製鉄は予想している。橋本会長の読みが当たったのだ。

思い起こせば、同社のUSスチール買収は、「このままではつぶれてしまうか、同業他社に買収される運命にあったUSスチールを、資金力のある日本製鉄が設備更新と製造ノウハウ伝授で救う」というナラティブで語られることが多かった。

ところがフタを開けてみれば、国内需要で伸び悩む日本製鉄がUSスチールに助けられる「対等な構図」になっている。米鉄鋼市場の好況が生み出した価格交渉力の向上やトランプ鉄鋼関税による保護という、必ずしもUSスチール特有ではない背景もあるものの、橋本氏は短い期間ですでに結果を出し始めている。