遺族が知らなかった貸金庫に2000万円
相続前後には、さまざまな手続きが発生します。それぞれの手続きには期限があり、それを過ぎるともらえるはずのお金が受け取れなかったり、ペナルティが科されたりします。いつ、どんな手続きが必要か、事前に確認しておきましょう。まずは、相続発生前に確認しておきたい3つのことです。
1つ目は生前贈与。法改正によって、相続開始前7年以内の暦年贈与が相続財産に加算されるようになりました。多くの人が関心を持っていますが、誤解が多いのも事実です。実は現在、経過措置の期間中で7年の遡りが完全適用されるのは2031年以降です。慌てる必要はありません。それよりも圧倒的に多いのが、「贈与が成立していない」ケースです。贈与は、あげた人ともらった人の双方が「財産を渡した・受け取った」と認識して初めて成立します。口座の名義だけ子に変えて、実際の通帳は親が管理している、いわゆる名義預金は、贈与として認められません。一方で、相続人ではない孫への贈与は、相続財産への加算の対象外のケースもあります。孫が相続や遺贈、死亡保険金などで財産を受け取ると加算対象となりますが、孫への贈与は選択肢の一つとなります。
2つ目は生命保険。死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。ところが、この枠を活用できていない人もいます。一時払い終身保険などへの加入を検討するのも一つの方法です。ただし、非課税枠が利用できるのは、亡くなった人(被相続人)が保険料を負担し、相続人が保険金を受け取る場合です。
3つ目として必ず実行したいのが財産目録の作成です。特にネット銀行、ネット証券、仮想通貨といったデジタル資産は、家族にとって存在自体が見えません。財産目録がないまま相続が発生すると申告漏れが生じる可能性が高くなり、後日の税務調査で指摘を受けるケースが多発します。
こんな事例もありました。税務署の指摘で遺族が知らなかった貸金庫が見つかったのです。税務署員立ち会いのもとで開けてみると、現金が2000万円。税務署の職員は現金に触れられないので、相続人と税理士とで札を一枚ずつ数える羽目になり、貸金庫の中で3時間近く拘束されました。
特に最近は税務調査の件数が増えています。国税庁の資料によると令和6事務年度(令和6年7月1日から同7年6月30日までの1年間)には、前期比111.2%の9512件に対して相続税の税務調査が実施されました。このうち申告漏れなどを指摘された割合は82.3%に及びます。財産を残す人が「ここに何がある」と書き残すだけで遺族の負担は大きく減ります。
「いつを起点とするか」が手続きによって変わる
では、相続発生後の手続きについて見ていきましょう。まず、亡くなった人が年金を受け取っていた場合、「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出が必要ですが、日本年金機構にマイナンバー登録がある場合は、原則、提出不要です。また、死亡日までに受け取っていない年金は「未支給年金」として、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族が受け取れます。
次に亡くなった人が加入していた健康保険については、「資格喪失届」が必要です。ただし、市区町村によっては死亡届の提出で資格喪失届が不要になることもあるので確認してください。亡くなった人が会社員だった場合は勤務先が手続きするため不要ですが、その扶養に入っていた家族は、切り替えをしないと健康保険が使えなくなります。なお、手続きの期限は、手続きの種類によって「いつを起点とするか」が異なります。「相続前後の手続きカレンダー」を参考にしてください。
相続放棄・限定承認の判断期限は3カ月以内です。相続放棄は「財産も負債も一切引き継がない」手続き、限定承認は「財産の範囲内で負債を引き継ぐ」手続きです。ただ、実務では限定承認はほとんど利用されません。使われるとすれば、連帯保証人になっているなど負債額が確定できない特殊なケースに限られます。
そして亡くなった人に確定申告が必要な場合には、相続人が4カ月以内に「準確定申告」を行います。これは相続発生後の手続きの中でも忘れられやすいものです。さらに、相続財産が基礎控除を超えそうなケースに関しては、相続の開始から6〜8カ月が経過した時点で、税務署から「相続税についてのお尋ね」が来ることがあります。財産が明らかに多い場合には納付書まで同封されて届くこともあり、このケースでは、税務署はすでに財産の内容を把握していると考えたほうがよいでしょう。この段階になって初めて申告の必要性に気づいて、慌てて相談に来る人もいますが、申告期限まで残された時間はごくわずかなので、相続財産に漏れが生じやすくなります。相続税がかかるかどうか早めに判断して、準備を始める必要があります。
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