自分なりに頑張ってきたつもり。だけど、この先、どんな「キャリア」を目指せばいいのだろう。SNSには“別の生き方”もあふれている。自由に人生を選べる時代だからこそ、時にその「自由」に惑う。そんな悩める30代キャリア女子に伴走してくれるのは、元祖「働く女子」の鎌田由美子さん。その経験からチアアップの言葉を届けてもらいます。よろしくお願いします、ゆみこ先生!
鎌田由美子
30代半ばでJR東日本のエキナカ「ecute」を立ち上げ、子会社社長や本社部長を経て、2015年にはカルビーの上級執行役員に就任。19年に独立し、農産物や地域のブランディングを手がけるONE・GLOCALを設立、現在は地方を飛び回りながら多摩大学大学院の客員教授も務める。
プレジデントグロース編集N
2025年に32歳を迎えた女性。友人が続々と結婚や出産、キャリアアップなどの転機を迎える姿を見て、「自分はこのままで大丈夫なのだろうか……」と日々モヤモヤした気持ちを抱えている。
AIは“じゃがりこ”を生み出せない?
仕事でAIはよく使っている?
はい、もうAI抜きでは仕事ができません。
うんうん。私も使っているし、今や日常の中に溶け込んでいるよね。ちょっとしたことを聞いたり調べたりするにはAIはこの上なく便利……、でもクリエイティブに使えるかどうかはこちら側次第と感じることも増えてきた。
大学院や企業研修で提案のやりとりをすることも多いのだけど、AIだけの中身はバレバレ。でも「問い」の力や「好き」の力が加わるとかなり変化する。例えば、「AIは、“じゃがりこ”を生み出せない」。
え、どういうことですか?
さまざまな商品開発の現場でAIが使われているけれど、既存の延長と新規軸は異なります。イノベーションは不連続で、現在存在しているモノやコトを活用するけど、できあがりは新しい価値を生み出し社会や経済に変化をもたらすこと。
AIに「調査」「分析」以上の「創造」の壁打ちやアドバイスを求めるなら、こちら側にそれを引き出せる「妄想」や「情熱」が必要。
さらに言えば、AIの知らない「現場」や「技術」のリアルな状況を入力するとこちらが思わなかったようなコメントが出ることがある。こちらが思わなかったというのがミソで、実は知識として本当は、プロは持っているものです。ただ人は誰もが、自分が意識しないうちにさまざまなバイアスがかかって、コストや調整の面倒さが浮かんで発想に組み入れられず、AIに提案されたときになるほどと思うもの。
例えば、新商品企画を考えてもらう場合、AIも使ってねと言っているけど、企業の開発のプロなのになぜか発想の方向性がとても似通ってしまったり、びっくりするほど面白くない企画を出してくることもある。その後会話を続けるとこれがまた面白いアイデアが出てきて「あれ?」って思うんだけどね。(笑)。
つまり、AIにただ「新商品の企画を考えて」と一方的に丸投げするのではなく、どう頼むのか……が大切だということですね。
そう。例えば、「限定○○味」とか「Z世代向け」とか高級路線とか味変りは王道。でも「じゃがりこ」みたいな発想は、もしかしたらAIにも否定される可能性があるかも。スナックを食べるときに手が汚れないというニーズは、会社でも認識していたみたいだけど、あの硬さは社内でもモニター調査でも否定が多かったと開発者はおっしゃっていた。
当時AIに聞いたとしたら「カタすぎる」とか言われそうだよね、データはそう言っているわけだし。カップの形状もスナック業界では初でしたが、今は日常になっています。
AIに言われたら、「確かに……」と納得させられてしまいそうです。もしかしたら、じゃがりこは、この世になかったかもしれないですよね。
もちろんAIの進歩は急速すぎて私も怖いくらい。使ってるといってもほんの一部分だけだものね。でも「創造性」って結局、その人個人の体験や感動、想いから生まれるものだと思うんです。だからできあがったとき「共感」として他人にも伝わる。
幼少期から大人になるまで、何を見て、どんな経験をしてきたのか。好きなことも嫌なことも。その先に、「こんなものがあったら自分はうれしい、ここがこうなったら自分は行く(買う)!」というところにつながる気がします。
なるほど……。そういえば前回、佐渡島庸平さんの『観察力の鍛え方』(SB新書)を紹介していただいたじゃないですか。それを読んで気づいたことがあって。私はこれまで「自分の“好き”」を、突き詰めて考えてきただろうか、ということなんです。
お、いきなり深いところに来ましたね。
スミマセン(笑)。うまく言えないのですが、この連載でずっと「自分の“好き”」を起点に仕事も考えるように教えていただき、実際に成長も少しは感じるようになりました。でも、そもそも「私はなぜそれを好きなのか」を、しっかり考えたことがあったかなと。
“好き”の深掘りね。
例えば、私は「コーヒーが好き」。たまにカフェ巡りもする。でも、そこどまり。コーヒーの何が好きなのかも分からないし、せいぜい「浅煎りのキリマンジャロが好き」レベルでとまっている。……ということに気づいて、最近、グラインダーを買ってみました。まずは豆を挽くところからやってみようかと。
「好き」を深掘りする
うん、やってみるのはいいことよ。実際、「コーヒー好き」も、突き詰めれば広く深い。豆の産地を訪ねて、アフリカや南米の農園まで行く可能性もありかもね。以前友人のマカダミアンナッツのアフリカの農園に行ったことがあるんだけど、ナッツ以外のことがすごく印象に残ったし、店頭でナッツを見るときも加工場の光景や働いている人たちが今も目に浮かびます。
産地の歴史や栽培方法や流通の仕組み、児童労働問題やフェアトレードの問題まで気になるかもしれない。もちろん、そこまで考えなくていいし、今は国内でもコーヒーの栽培をしているところもあるから訪ねることは可能だね。
近所に豆の焙煎をしているお店を見つけて、通い始めました。豆の種類や焙煎の仕方など、知っているようで知らないことがたくさんあって、今はお店の方との会話がとても楽しいんです。
ネット販売や無人販売だってある時代だけど、それがリアル店舗の醍醐味。だからリアル店舗はなくならないと思います。それに“好き”を起点に「なぜ?」を考えることが習慣化すると、どこに行っても、誰に会っても、ただ「楽しかった」では終わらなくなりますよ。自分というフィルターを通して、物事を考える癖がつく。それがやがて、新しい発想を生み出す力になっていくんです。
私はこれまで、資格とか専門知識とか「目に見えるスキル」がないと不安でした。でも、今話しているのは「目に見えないスキル」ですね。
それどころか、これからの時代はむしろ、そうした「目に見えないスキル」のほうが大切。「発想する力」「問いを立てる力」「新しい価値を発見する力」。これらは履歴書には書けないし、資格証明書もない。でも、それが他の人とは異なる、あなたならではの力になるはずよ。
私の「大したことない」体験でも、いつか化ける可能性はある、ということですね。
もちろん! ただし、それを仕事に生かすには、もう一つ大事な力が必要で、それは「言語化」「表現化」の力。面白いアイデアも、それを相手に伝えられなければ形にはならない。企画会議だって、その場にいる全員が同じ体験を共有しているとは限らないわけで、「これが絶対面白いんです!」と力説しても、相手は「ふーん」で終わることってあるじゃない?
私は毎回そのパターンです……。
私も同じ(笑)。エキナカ事業に奔走しているとき、数えきれないほどプレゼンを行ってきました。資料を作り、言葉で力説し、「こういうコンセプトでこんな駅をつくりたいんです!」と訴えてきた。パースまで作ってイメージを伝えているのに全く伝わらない。
でも次第にチームで必死になっている姿を見て協力者は増えてきた。その人たちですらイメージは伝わってなくて、完成したエキナカを見て、「そうか、お前はこれがやりたかったのか。もっと前に言ってくれたらよかったのに」って(笑)。直属の上司とチームメンバーは同じ夢を見ていたから同じ方向に走れたんだと思う。
あれ? それまでも散々言ってきたはずじゃ……。
そう。それくらい「言葉」というのは伝わっているようで、伝わっていない。そこが「データ」と違う。でも「データ」は過去からつくられるから今ない新しいものはたとえでしか語れない。目の前に現れて初めて、人はその実態を共有する。だからこそ新規事業なんだけどね。
型を身に付けてから、破る──「守破離」の極意
「守破離」は知っているよね。新しい発想が何でもいいわけじゃない。仕事では身に付けるべき“型”もあります。書道や茶道、華道と同じで型を知っているからこそ、新しいことを生み出せることもあると思うんです。
私は学生時代に華道をやっていたけれど、当時は「古いモノには決まった型が必要なんだなぁ。なんで自由じゃないんだろう」と思うことがありました。
でも、実家で庭に生えている草花を生けようとしたとき、どれも花屋に並ぶようなまっすぐな姿ではなく、クネクネと自由奔放で。どうしようかなと思ったときに、私には学んだ型があることに気づいたの。そのおかげで、自由に生けることができた。何事にも、ゼロから自由ということはないんだと気づきました。
まずは型を守り、それを破って、最後は離れていく。狂言師の野村萬斎さんは「型の先にオリジナルが生まれる」と表現していますが、“型破り”を目指すとしても、まずは破るべき“型”を持たなくてはならない。エキナカの前に私は百貨店や駅ビルを含めて10年以上は流通小売りの世界で仕事をさせてもらった。これが収支や運営オペレーション等、エキナカの事業スキームに大きく役立った。
なんとなく分かってきました。編集の仕事も、まずは型をしっかり身に付けないと始まりませんね。
そう。焦らなくても大丈夫。型を体得した先に、おのずと、あなたの個性も出てくるはずだから。
鎌田さんの場合は、仕事の型を身に付けてから「ecute」や「A-FACTORY」といったオリジナルを生み出すまでに、どんな「好き」を極めてきたんでしょうか?
「好き」ということでいうと、私は旅も好きだし、おいしい食もアートも好き。でも、憧れはあるけどその作り手になりたいわけじゃない、と思ったの。むしろ日本全国に素晴らしい作り手や生産者がいるのに、その価値に見合った対価を得られていない……そういう状況にモヤモヤしたものを感じるようになり、そこに私の出番があると考えた。
もし、彼らがうまくマーケットにつながることができていないなら、つなぎ役を私がやりたい。新しいビジネスのやり方を持ち込むことで、生産者も消費者も喜ぶ仕組みをつくりたい。そこに私の“好き”や“型”を投じることで、実現できると信じている。そうしてみると、やっぱり私は「生身の人間の営み」が好きなんでしょうね。
自分の好きなことを大切にしながら、仕事のやり方を学んでいく。それが自分らしい「キャリア」をつくるということなのでしょうか。
そう。だから堂々と「私はこれが好き!」を、発信していってほしいな。そうすれば、そのアンテナにいつか誰かが反応してくれるはず。そこからあなたらしいキャリアが始まっていくんだと思うよ。
(構成=三浦愛美、撮影=市来朋久 イラスト=水谷慶大)