政府備蓄米の買い戻しを、さらに増やす必要はあるのか。元農水官僚で武蔵野大学国際総合研究所研究主幹の山下一仁さんは「産地の知事たちは食料安全保障を掲げ、備蓄を100万トンに戻すよう求めている。しかし、本当の目的は、高いコメを大量に抱えたJA農協の在庫を減らし、米価の下落を防ぐことだ。高米価の維持は輸入米の増加を招き、かえって日本の食料安全保障を損なう」という――。
JA全農にいがたが開催した「新潟米懇談会」であいさつする花角英世知事(中央)=2026年9月8日午後、新潟市中央区
写真提供=共同通信社
JA全農にいがたが開催した「新潟米懇談会」であいさつする花角英世知事(中央)=2026年9月8日午後、新潟市中央区

さらなる「備蓄米買い戻し」を求める大合唱

9月1日、鈴木憲和農水大臣は、食料安全保障のために21万トンの備蓄米を買い戻すと発表した。しかし、米価下落を防止するのに十分ではないと考える農業界はさらなる買い戻しを要求している。新潟秋田山形などの産地の県知事たちは、「適正な備蓄水準の100万トンまで買い増しすべきだ」と主張している。

買い増しの理由として掲げられているのは「食料安全保障」である。食料安全保障とは消費者の主張である。それなのに、東京都や大阪府などのコメ消費地の知事から備蓄米買い増しの要請はない。驚いたことに、朝日新聞の9月5日付の社説も、追加の買い戻しを批判しながら、適正水準の3分の1まで減少しているので、「政府には食料安全保障の観点から回復させていく責任がある」としている。

消費者のことを真剣に考えるのであれば、25年産米が史上最高値をつけたときに、産地の知事たちは、「コメが高すぎるのでJA農協は在庫を減らして供給を増やすべきだ」と主張するべきだったのではないだろうか。

【図表】コメの消費者価格(精米5キログラム)の推移

通常の財なら、在庫が増えれば価格は下がる。

過去に例がないほどJA農協など民間在庫が積みあがる中で、過去に例がないほど高い米価が実現したことの不思議さに気が付かなかったのだろうか。

終戦後の食糧難時代、彼らの先輩である産地の知事が消費地へのコメの移送に激しく抵抗し、都市住民を含め国民すべてに対して配給米を供給したい農林省をさんざん苦しめた歴史を思い出した。