「100万トン」に食料安全保障上の意味はない

備蓄米100万トンの根拠は10年に一度の不作でも対応できるようにということだ。

しかし、100万トンでは260万トンものコメが不足した平成のコメ騒動に対応できない。しかも、平成のコメ騒動も含めて、コメだけが不作になる事態は餓死者が出るような食料危機ではない。今の備蓄米制度は食料安全保障を名目にしているが、毎年5年経過した備蓄米20万トンを家畜のエサに処分して、同量の主食用米を市場から買い入れ隔離するという米価維持政策に他ならない。国民はメニューにあるラム肉(食料安全保障)を農水省に注文して、犬の肉(高米価維持政策)を食べさせられているのだ。

食料安全保障を掲げながら、食料自給率を下げるJA

不作で供給が減るとコメの価格が上昇する。代替品であるパンやうどんなどの小麦製品への需要が高まる。小麦輸入が増加するだけでなく、コメについても輸入が行われ国内に十分な供給が実現する。

コメの関税は60kgあたり2万0460円。通常のコメ価格は1万5000円なので、普通なら輸入価格がゼロ円でも輸入されない。そのような輸入禁止的な関税を我々はガットウルグアイ・ラウンド交渉で設定した。

しかし、国内の価格が3万7000円まで騰貴したので、輸入禁止的な高関税を払っても輸入が行われた。輸入価格が1万円なら2万円の関税を払っても国内産米より安い。我々が想定もしなかった高米価と輸入禁止的な高関税を乗り越えての輸入が、JA農協によって引き起こされたのだ。

【図表】コメの民間輸入量の推移(2015~2025)
財務省「貿易統計」より編集部が作成
【図表】食料自給率の長期的推移
出典=農水省より

コメの国内生産は増えたが、輸入も増えたために、2025年カロリーベースの食料自給率は2021年から2024年までの38%から過去最低の37%に低下した(逆に、生産額ベースの自給率は米価高騰によって上昇した)。食料自給率向上を叫ぶJA農協の高米価維持が、かえって自給率を押し下げる方向に働いたのである。

25年の関税を払った輸入量は10万6000トンで、低関税のミニマムアクセス米の10万トン(主食用枠)と同量である。農水省が本気で価格を下げようと思ったなら、ミニマムアクセス米の輸入枠を増やしたり、関税を一時的にも引き下げたり撤廃したりすることによって、もっと多くの量を輸入できた。史上最高のバブル米価に対して、農水省はこうした対策を講じようとしなかった。JA農協に対して、在庫を減らして米価を下げるべきだという指導すらしなかった。

平成のコメ騒動も260万トンものコメを輸入することによって解決した。不足すると輸入せざるをえなくなり、食料自給率を下げてしまうのだ。農業保護のためにコメ価格を維持しないといけないと訴える人に気づいてほしいのは、我々が貿易のない閉鎖経済ではなく、開放経済の中で生きていることだ。仮に主張を受け入れたとしても、かえって食料不足の危機を招き、農業自体も守ることができなくなる。