取引は百数十年に1回 土地の回転率が低すぎる

日本経済新聞記者の外山尚之氏が書いた『なぜ働いても家を買えないのか』(日経プレミアシリーズ)が話題を呼んでいます。現在、特に東京において、若い世代が働いてもマイホームを手に入れられないという深刻な事態が進行しています。そうした、「先の見えない不透明さ」が多くの読者の共感を呼んだのかもしれません。

若者が家を買えなくなった根本的な原因は、不動産が投機対象として扱われ、円安による海外マネーの流入なども相まって価格が急騰している一方で、日本人の給与がその上昇率に全く追いついていないことにあります。これはある意味で世界的な現象でもありますが、東京への一極集中が続く日本では、この問題が極めて先鋭化して表れています。歴史的な円安を背景に、香港やシンガポールなどの海外投資家から見れば、今の東京の不動産は高くてもまだまだ「割安」に映るのです。

世間ではよく「価格を釣り上げるデベロッパーが悪い」という批判を耳にします。確かに一部にバブリーな過熱があることは否定できませんし、人気のタワーマンションが投機目的に転売されるような事態も起きています。しかし、不動産価格の高騰は、単に業者の強欲さによるものではなく、日本の土地制度や都市構造に根ざした「構造的な供給不足」がもたらしている必然なのです。

まず指摘しなければならないのは、固定資産税のあり方です。

バブル期にも盛んに議論されましたが、日本の固定資産税は安すぎます。固定資産税が安いため、土地や建物を有効活用していなくても、そのまま持ち続けることができてしまいます。話題になった晴海フラッグなどでも、価格が高騰しているにもかかわらず、実際に人が住んでいる部屋は少ないと言われています。これは、固定資産税が安いからこそ、空き家のまま放置したり、投機目的で保有し続けたりできるからです。

東京・晴海の大規模マンション群「晴海フラッグ」
東京・晴海の大規模マンション群「晴海フラッグ」。価格高騰の一方、実際に人が住んでいる部屋は少ないと言われている。

もし、高額なタワーマンションや都心の一等地に対する固定資産税が今の2倍になればどうなるでしょうか。有効活用できない所有者は維持しきれずに物件を手放し、市場への供給が増え、価格は下落圧力にさらされます。日本全体の可住地面積に対して、毎年市場で売りに出される土地の割合をバブル期に試算したデータがありますが、実は全体の1%にも満たない水準でした。計算上、百数十年に1回しか土地が取引されないという異常な回転率の低さであり、これが圧倒的な供給不足を生んでいるというわけです。

もちろん、固定資産税の引き上げには強い政治的ハレーションが伴います。過去にアメリカのカリフォルニア州でも、固定資産税の高騰に対する住民の反乱が起きた歴史があります。日本でも、これまで長年つつましく暮らしてきた高齢者の税負担が急増することへの反発は避けられないでしょう。しかし、著しく価格が高騰している都心部に限定するなど、知恵を絞った税制改革が不可欠であり、固定資産増税は検討しなくてはいけません。

次に、「都市計画と規制」の問題があります。

よく「東京は人が多すぎる」と言われますが、実は東京の人口密度は、高層ビルが林立する韓国のソウルなどに比べると、かなり低い水準にとどまっています。都心部に一戸建てを持っても、固定資産税が安いため、土地を10階建てのビルにして高度利用しようとする経済的なインセンティブが働かないのです。

さらに、建物の高さ制限などの権限を「区」が握っていることも足かせになっています。例えば、千代田区には高いビルが立ち並んでいますが、港区で森ビルが大規模な高層ビルを建てようとした際、日照権などを主張する区や住民の反対に遭い、凄まじい苦労を強いられました。住民の生活環境はもちろん大切ですが、東京はそれ以上に「日本の戦略的拠点」としての重要性を持っています。だからこそ、私は以前から「東京は他府県と同じ地方自治法の枠組みから外し、政府の直轄地にするべきだ」と主張しているのです。特別な法律体系を作り、土地の有効活用と圧倒的な住宅供給を図らなければ、この歪みは解消しません。

(構成=鈴木聖也 写真=時事通信フォト)