職人のいない飲食店で出てくる焼き立てパンは、実は解凍された冷凍パンだ。冷凍パン技術の広まりには、広島市に本社を置くタカキベーカリーの奮闘があった。

5年で売上高2倍 急伸の引き金はコロナ禍

食べるたびに驚かされる。これが、本当に冷凍のパンなのか、と。

サンマルクカフェの主力メニューであるホットサンドを注文すると、1分ほどで商品がトレーに載せられた。

サンマルクカフェの主力メニュー、ホットサンド。焼成冷凍パンをリベイクするだけで、注文から約1分で“焼き立て”が提供される。
サンマルクカフェの主力メニュー、ホットサンド。焼成冷凍パンをリベイクするだけで、注文から約1分で“焼き立て”が提供される。

焼き立て――。それが、サンマルクカフェのこだわりだ。

少しだけ焦げ目がついたクラスト(皮)は、ほどよく焼き締まった軽やかな食感で、タマネギとレタスの歯触りがアクセントになっている。挟まれたチーズが、クラム(内側)のしっとりとした弾力を際立たせる。見た目も、食感や味わいも、焼き立てのようだ。

これが冷凍のパンだとは、ほとんどの人が気づいていないに違いない。冷凍食品には、つくり立てに比べて味や風味が落ちるというイメージがあるからだ。しかし目の前のホットサンドは、先入観をあっさりと覆した。

アンデルセン・パン生活文化研究所の社長・沼田二郎は、創業の地・広島市に立つグループの旗艦店「広島アンデルセン」の一室で切り出した。

「様々なホテル、レストラン、カフェでも焼成冷凍パンのニーズが高まっているんです」

焼成冷凍パンとは、焼き上げたパンをタカキベーカリーの独自技術で急速冷凍し、焼き立ての風味や食感、香りを閉じ込めた商品だ。

タカキベーカリーは、フランチャイズチェーン「リトルマーメイド」や、直営ベーカリー「アンデルセン」などを展開するアンデルセングループの中核を担うパンメーカーである。グループの経営戦略を統括するのが、アンデルセン・パン生活文化研究所だ。

「タカキベーカリーでは1982年頃から焼成冷凍パンを生産していました。しかし大量生産、大量消費の高度経済成長期に、消費者は冷凍保存できる焼成冷凍パンを求めていなかったのでしょう。それが、2000年代に入り、冷凍技術の向上に加え、共働き世帯や単身世帯の増加により、好きなものを好きなときに好きな量だけ解凍して食べられる焼成冷凍パンが時代に合う商品になったのです」

(撮影=上内かなえ(沼田社長、坂本社長) 写真提供=サンマルクホールディングス 取材・文=山川 徹)